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Ideas 公開日: 2018.09.04

小売り形態の新展開、世界で始まる移動型の無人店舗

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どこでも買える、すぐに手に入れられる、自動運転が変えるショッピング

 2020年。ライトアップされたバス型の車両があちらこちらを走っている。乗り物ではない。中に様々な商品を搭載し、無人で街中を巡回する移動型コンビニエンスストアだ――。

 東京オリンピック・パラリンピックが開催されるころ、東京近郊では、こんなシーンを目にすることになるかもしれない。今とはちょっと違った買い物を体験できる、小売店舗の新形態である。実際、トヨタ自動車が中心となって自動運転コンビニの実用化を目指している。

 トヨタがコンセプト発表した、移動や物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービス(MaaS)用電気自動車「e-Palette」は、荷室ユニット数に応じて全長が異なる計3サイズの車両が用意されている。e-Paletteでは低床・箱型のバリアフリーデザインによるフラットな空間に、ライドシェアリング仕様、ホテル仕様、リテールショップ仕様という具合に、サービスパートナーの用途に応じた設備を搭載できる。
 e-Paletteのサービス展開にあたっては、マツダやAmazon.com、Pizza Hut、Uberなどが初期パートナーとして参画し、2020 年代前半には米国をはじめとしたさまざまな地域でのサービス実証を目指している。日本での展開については、ヤマトホールディングスおよびセブンイレブン・ジャパンと提携し、一部機能を搭載した車両で東京オリンピック・パラリンピックのモビリティとして大会での活用を検討している。

世界で立ち上がる無人店舗

 商品が必要になったらいつでもどこにでも来てくれる無人店舗。外出先からスマホで商品を注文すれば帰宅時に駅まで届けてくれるデリバリーサービス。自動運転車の実用化によって、未来のショッピングが便利になりそうだ。その実用化に向けた試みは、冒頭で挙げたトヨタだけでなく、世界のあちらこちらで進められている。
 ネットショッピングの台頭によって、買い物の体験や、私達のライフスタイルは大きく変わった。欲しいものはいつでも簡単に購入でき、直接自宅に届けてくれる。とはいえ、日常生活に必要な消耗品などは無くなったらすぐにでも補充して使いたいだろう。人はいつでも注文したい商品が決まっているわけでもなく、陳列された商品を見ながら手に取って確認して買いたいことも多い。すべての買い物をネットショッピングで済ませる、というわけにはいかないだろう。

 一方で、日本は過疎化によって、買い物が不便になっているという側面がある。地方のみならず都会でも、歩いて行ける範囲にスーパーマーケットなどの店舗がないケースさえある。車を使って買いに行かなければ生鮮食品などが手に入らない買い物難民の課題は、すぐには解決されそうにない。また、自然災害によって避難生活が長引いている被災者支援を考えると、必要な物資を必要なタイミングで届けることも重要である。

 このような背景から期待されるのが、自動運転によってあちらこちらに移動する無人店舗。取り組みを見ていこう。

生鮮食品を運んできてくれる自動運転ワゴンショップ

 2017年創業のスタートアップRobomartが発表したのが、野菜や果物などの生鮮食料品を運んでくる完全自動運転の無人型移動販売店舗「Robomart」だ。ワンボックスカーのような外観を持つRobomartの側面には、スーパーマーケットの食料品売り場のように野菜や果物を陳列する冷蔵システムが搭載される。陳列スペースは約2立方メートルで、50~100品目の食品が置けるという。Robomartの最大スピードは時速40km程度で、連続走行距離は約130kmとなっている。
 利用者は近くで走行しているRobomartを専用アプリで探し、場所を指定して呼び出す。Robomartが到着すると専用アプリで操作してドアを開け、商品となる野菜や果物を取り出す。利用者が商品をバッグに入れるなど購入する様子がカメラで認識され、事前に登録した支払い情報に従って精算される。
 Robomartはスーパーマーケットチェーンなど、大手チェーンストアへのリースが計画されている。現在、プロトタイプの1号機が既にカリフォルニア州で製造されており、今秋からサンタクララ地区で実証実験を開始する予定だ。実験では6台のRobomartに野菜や果物、菓子類を搭載してテスト販売する。なお、自動運転そのものについて技術面や社会受容性の面でまだ課題があるため、テスト期間中は自律走行は避け、遠隔操作で移動させるという。

AIが車内で個別に買い物を支援

 車両に乗り込んで買い物をする移動式のコンビニであれば、もっといろいろな商品を販売できる。スウェーデンのWheelysが中国の合肥工業大学と共同で開発した「Moby Mart」は乗り合いバスのような大きさの車両で、車内にはさまざまな商品が並んでいる。キオスクなど駅にある小規模な店舗にタイヤが付いたようなもので、言ってみれば、中に入って商品を買える、自走式の無人コンビニエンスストアだ。店内の在庫管理や商品の補充などはAIが行う。具体的には、在庫が減ってくると自動運転によって倉庫に引き返して商品を補填するといったことになりそう。ほかに、イベントなどで人がどこに人が集まるかをAIが予想し、その場所に自律的に移動するといった機能も考えられている。
 車両の中に入ると、ホログラムで表示された店員Holが出迎えてくれる。事前に会員登録しておき、入店はスマートフォンを使って認証する。店内では実際に手に取った商品をショッピングカートへ入れながら、アプリでスキャンしておけば、店舗を出る時に自動的に精算されクレジットカードなどで自動決済する仕組みである。
 Holは天気に関することなど簡単な会話ができ、利用者の属性に合わせておすすめの商品を提案したり、予算内で買い物をする手助けをしたりする。店内に欲しい商品が無くてもHolに予約注文しておけば、後日Moby Martで購入できる。将来的には利用者一人ひとりの購入パターンを読み取り、晩御飯のレシピを提案する、といったことも可能にする。Robomartのようにスマートフォンで好きな場所に呼ぶことはできないものの、そこは別の手立てとして、天井に収納したドローンを使って任意の場所に配送することになるようだ。

手のひら認証での決済を採用した自動運転コンビニも

 上海では、手のひら認証を採用した自動運転コンビニの実証実験も行われている。車両にはShenlan Technologyが開発した自動運転商用車「Pattaya」を、認証・決済にはDeepblue Techの手のひら認証を採用している。スマートフォンのアプリで予約すればPattayaがやってきて、利用者は手のひら認証だけで入店して買い物できる。現段階でのPattayaの自動運転はレベル3(クルマだけで自律走行できる機能を備えるが、ドライバーの乗車が必須)であるためドライバーが乗って運転をサポートしているが、将来的にはレベル4以上の完全無人運転走行を実現する予定である。
 Pattayaの最大スピードは時速90km程度で、連続走行距離は約160km。車両は無人コンビニ専用というわけではなく、オフィスや寝室、移動会議室など、ユーザーの使用目的によって車内を柔軟にレイアウトできるようになっている。車両価格40万元(約650万円)以下を目標としているPattayaは、将来的には1日4000~5000円程度でのレンタルも検討している。

自動運転によるデリバリーロボットも実用化を検討中

 自動運転コンビニで商品を購入するメリットは、商品を実際に手に取って確認でき、配送を待つことなく、すぐに購入できることだ。ただ、商品の品揃えや価格については、やはりオンラインショップにはかなわない。そうしたケースにも対応できるものとして期待されているのが、Uber Eatsなどのようなデリバリーサービスでの自動運転車活用である。オンラインショップで購入したものを素早く確実に受け取れるわけだ。

 米国の大手スーパーマーケットチェーンKrogerは自動運転スタートアップのNuroと提携し、アリゾナ州スコッツデールで自動運転車による食料品配達の実証実験を開始した。配達料金は1回5.95ドル(約660円)で商品1つからでも配達に応じ、当日もしくは翌日までに届けられる。

 配達に使用される自動運転車「R1」は通常の車両に比べて非常にコンパクトで、上部にカメラやLiDARなどさまざまなセンサーが搭載されている。
 日本では自動運転技術ベンチャーのZMPとローソン、慶応義塾大学SFC研究所が自動運転で走行するデリバリーロボットを使って、商品を消費者に配達する実証実験を慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスの構内で始めた。デリバリーロボット「CarriRo Delivery」は幅65cm、長さ95cm、高さ96cmで、最大50kgまで荷物を積載できる。また、5cmまでなら段差も乗り越えられる。最大スピードは時速6km。一度の充電で約12時間連続稼働する。
 2019年2月までの実験では、利用者はスマートフォンのアプリを使ってローソンの弁当などを発注。店員が品物を載せた後、デリバリーロボットが利用者のもとに配送する。この実験は大学キャンパス内だけで実施するが、「CarriRo Delivery」自体は公道での利用を想定しており、2019年秋の量産化を目指している。


元田 光一


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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