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Ideas 公開日: 2018.10.10

「国全体をデジタル化、日本とも緊密に」──タイのピチェート・デジタル経済社会大臣

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タイが国を挙げて挑むデジタル化戦略「Digital Thailand」。取り組みを担当大臣に聞いた。

 タイのデジタル化に向けた動きが活発化している。その旗印となるのが「Digital Thailand」というビジョン。推進役は、2016年に情報通信省を改組して発足した「デジタル経済社会省(depa)」である。

 Digital Thailandは、2016年にタイ政府が採択した「タイ・デジタル経済社会開発20カ年計画」に基づくもの。同計画は、(1)生産性の向上、(2)所得格差の是正、(3)雇用の拡大、(4)産業構造の高度化、(5)ASEAN経済共同体でのハブ的役割、(6)政府のガバナンス強化を目標とし、5年後、10年後、20年後(起点は2016年)に目指すビジョンも示している。

 もちろん、タイでもデジタル技術を活用した動きは既に拡大している。Facebookを利用したネット販売や、支払い時に表示されるQRコードにスマートフォンをかざすだけで銀行口座から代金が引き落とされるキャッシュレス決済など、日本も顔負けの側面さえある。

 一方で、就労人口が極めて多い農業のGDPが全体の15%に過ぎないなど、課題も多く残されている。そこでDigital Thailandのビジョンの下、全国的なデジタル技術活用を推進しようとしている。特に意識しているのは、これからの社会を支えていく若い世代のデジタルリテラシーの向上である。2018年9月には、depaが「Digital Thailand Big Bang」と呼ぶイベントの第2回(第1回は2017年9月)を開催した。

 このイベントに合わせて、日経BP総研とdepaは共同で「Asia Digital Society Forum」を開催した。基調講演にはdepaのピチェート大臣が登壇。講演後、インタビューの機会を得て、タイ政府が進めるデジタル化推進の動きについて聞いた。(聞き手は河井保博=日経BP総研)
Asia Digital Society Forumで講演したピチェート・デジタル経済社会大臣
──Digital Thailandのプロジェクトでは、インフラの整備から教育・トレーニング、スタートアップの育成など、多様な取り組みが並行して進んでいますね。うまく進んでいるのでしょうか。

 これまでのところ、とてもうまくいっていると言っていいでしょう。Digital Thailandには、インフラ整備、人材育成(ヒューマンリソース)、テクノロジー開発、サイバーセキュリティ強化、デジタルガバメント整備という5本柱があります。

 それぞれの取り組みのうち、一番優先度が高いのはインターネット・インフラの整備で、海底ケーブルや衛星通信を含め、通信環境の強化を進めています。同時に、全国の約7万5000の村に光ファイバーを敷いて、高速インターネット接続できるようにする計画です。高速インターネット接続については、既に75%は終えていて、残る村は1万5000だけ。2019年の半ばまでには完了できそうです。学校や病院のインターネット接続はもっと進んでいて、2018年中には終えます。

 また、それぞれの村にはフリーWi-Fiも設置して、誰もがインターネットを自由に利用できる環境を整えていきます。人材育成では、それぞれの村でデジタルトレーニングを展開していきます。

──大臣は講演で、「Digital Thailand Big Bangは子供や若者がデジタル技術の将来と触れ合うことを目的にしている」と話していましたね。すると、トレーニングというのも、例えば小学校を通じた教育といったイメージになるのでしょうか。

 いいえ。Digital Thailandの人材育成として考えているのは、もっと幅広いもので、学校教育を通じたものとは違います。もっとインフォーマルな教育で、例えばポータルサイトを作ってデジタル技術の使い方を伝えていくことが、その一つです。

 地域の産物をどうやってネット販売するかとか、そういう具体的なことを実感して、みんながデジタルを活用できるようになっていってほしいと思っています。日本の「一村一品」と同じ考え方で、タイのそれぞれの村に、特産品を生み出し、ネットを通じて世界に販売するようになっていってほしいのです。そのために、オンライン決済、キャッシュレス決済も促していきます。

──技術者の育成も必要ですね。

 もちろんです。デジタル技術に関しては、シラーチャという都市を、技術開発の中心地にしたいと考えています。シラーチャは日本企業も数多く拠点を構えていますが、そこに、「Digital Park Thailand」を作ります。IoT、ビッグデータ、クラウドセンター、アニメーション技術などの開発センターを置くほか、サイバーセキュリティのトレーニングセンターも設置する予定です。

──Digital Park Thailandには海外企業も誘致するわけですね?

 そうです。例えばサイバーセキュリティに関しては、日本とタイとで国レベルで力を合わせてセキュリティ強化に臨みます。日本とは、いろいろな面で緊密に連携していきたいと思っています。もちろん、ほかの技術に関しても海外企業を歓迎します。もっと言うと、シラーチャを、スタートアップ企業のハブにしていきたいと考えています。

 先進的な技術の開発や、その応用についての斬新なアイデアは、スタートアップ企業が生み出すケースが少なくありません。ですから、これまでにもスタートアップが集まるような、課税スキーム、エコシステム、交流のためのコワーキングスペースづくりを進めてきました。大学とも連携してキャンパス内でのスタートアップ立ち上げを促しています。

 ただ、まだ十分とは言えません。これから何百ものスタートアップを生み出し、海外のスタートアップも招いて、それぞれが連携するようなビッグ・エコシステムを作っていく必要があります。エコシステムを作れれば、新しく入ってくる企業に対してノウハウや経験を提供できますし、そうなってくれば国内外の投資家も呼び込めます。シラーチャを、その核となる場所にしていく考えです。
──デジタル化で特に注力する産業分野はありますか。

 実際のところ、デジタル化は様々な領域で、既に進んでいる。タイで代表的な例は銀行だろう。銀行は、物理的な店舗を持つ銀行から、自動化、電子決済を核としたバーチャルな銀行に変わろうとしています。デジタル化によってノンバンクが銀行と同じサービスを提供できるようになったことで、銀行はディスラプトされ、急速に変革が進んでいます。オンライン決済などが進んだことで、銀行は窓口の拠点をどんどん減らしています。

 金融分野で言うと、タイでもキャッシュレス決済は急速に広がっています。QRコードを使った決済の仕組みです。タイ銀行(国立銀行)の調べによると、これまでに既にQRコード決済で8億件のトランザクションが発生していて、さらに増えている状況です。

 キャッシュレス決済は、利用者にとって便利なうえに、取引がモニタリングされ、透明性が高い。わざわざ銀行に行かなくて済むため、例えば税金の還付なども手軽に手続きできるようになります。取引履歴もきちんと記録され、ログをチェックできるようにもなる。電子財布のように、買い手と売り手の間をつなぐ、新しいビジネスを生み出すプラットフォームにもなるわけです。

 こうしたデジタル化の動きは、進み方の違いはあるものの、どの業界も同じです。デジタル化によって、もっと価値の高いものを、効率よく生産できるようになるし、潜在市場の予測もできるようになる。支払い、物流、保存など、どれもデジタル化によって変わっていきます。ビッグデータ、クラウドを使って、より便利なサービスを提供するようにシフトしています。工業向けには、クラウドへのシフトを促したりしています。

──タイでは、人口の多くが農業に携わっていますが、農業のデジタル化も進んでいますか?

 農業も変わりつつはありますが、歩みは遅いですね。今はまだほとんどが人手による作業ですから。ただ、農業のデジタル化は非常に重要なテーマです。タイでは農業に携わる人口がとても多いにもかかわらず、GDPに占める割合は15%ほどしかありません。デジタル技術を使って、改善していく必要があるわけです。

 農家でも、モバイル端末を使えば、もっとリアルタイムの情報を得られるようになります。そういうテクニックを学べば、データを活用して精度の高いスマートファーミングも実現できるようになるはずです。新しいデバイスを使えば、水、土壌の成分などのモニター、自動灌漑、農薬の除去など、多くのものがデジタル化されていきます。これによって若い世代が、農業に興味を持って、次世代の農業を生み出していってくれることを期待しています。

──タイの課題には、自動車による交通渋滞がありますね。デジタル社会では、それを解決する手段としてドローンを使った「空飛ぶタクシー」も可能になるかもしれません。興味を持っていますか。

 タクシーということは、人を乗せるものですか?どちらかというと、今のところ、ドローンはまだ軽いモノを運ぶためのものというイメージで、人を運ぶのは未来の話だろうと思います。

 例えばGrabやUberなどが既にやっているフードデリバリーなどのような領域ならドローンもいいかもしれません。ただ、人を乗せるとなると、まずは安全性が大事です。既存のビジネスとのバランスも考える必要もあります。Grabなどは、ドライバーが、余っている時間を使ってサービスしてくれるから、早朝でも深夜でも、比較的安い費用で対応してくれます。とても便利で、これは社会にとっては良いことです。とはいえ、費用は高くてももっと高品質なサービスを望む人もいます。そのバランスをとっていく必要があるでしょうね。

──そういった新しい取り組みを推進するための、「特区」のようなことは考えていますか。

 はい。既にサンドボックスをいくつかスタートさせています。サンドボックスは、単なる技術の検証の場ではなく、社会実装するうえでの課題を見付けたり、確認したりするための場です。ですから、ほかの地域では法制度上利用できない技術についても、サンドボックスの対象地区では利用できるように法制度を緩和します。

──サンドボックスの実績は?

 既に実施しているのはFintechとビッグデータです。イノベーションにつながりそうな技術については、今後もサンドボックスを設けていきます。次に採用するテーマとしては、次世代モビリティの核となる、5G(第5世代移動通信システム)を考えています。


河井 保博=日経BP総研


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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