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Ideas 公開日: 2018.10.15

AIが変える産業構造──「Meets DIGITALIST~AIがもたらす未来~」(前編)

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AIによって産業構造はどう変わるのか?本誌初の主催イベントでの討議をレポート。

 本誌『DIGITALIST』は9月26日、初の主催イベント「Meets DIGITALIST~AIがもたらす未来~」を開催。3人の識者を招き、ビジネスからライフスタイルまで至るところに適用され始めているAI(人工知能)が私たちにもたらす未来について討議した。


 パネルディスカッションに登壇した識者は、
  • 楽天株式会社 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表 森正弥氏
  • リテールAI研究会 代表理事 田中雄策氏
  • 駒澤大学 経済学部 准教授 井上智洋氏
の3人。ファシリテーターは本誌『DIGITALIST』編集長の河井保博(日経BP総研 クリーンテック ラボ所長)が務めた。ニュースアプリ「SmartNews」で知られるスマートニュースのオフィスに設けられたイベントスペースには、約70人の読者が来場している。

 AIの活用シーンは広がっているように見えるが、実際のところはどうなのだろうか。パネルディスカッションの前半をお伝えする本稿では、日本のAI活用が遅れているという危機感、AIによって変わる産業構造に関する討議の模様をお伝えする。

「日本は大丈夫かな?」という危機感

『DIGITALIST』編集長 河井保博
河井 『DIGITALIST』というサイトを運営するにあたって、作り手の僕らが持っている思いが2つあります。1つが「期待感」で、デジタル化によって今よりももっと便利に、もっと暮らしやすい世の中になっていくであろうという期待感ですね。その時に役立つWebマガジンにしたいという思いがあります。

 だけど一方で、ちょっとした「危機感」もあります。危機感のほうは、記事を作る上であまり強く押し出さないように心がけているのですが……というのも、20代〜30代の若いスタッフと話をしていると、危機感を煽るような記事って説教くさいし、年寄りくさく感じるというんですね(笑)。ミレニアル世代はデジタルテクノロジーを当たり前のように使いこなすわけですから、「新しい技術を使わないと損をするぞ!」と危機感を煽るような記事を出すと、しらけてしまうようです。

 ただ、それでも危機感を覚えてしまうところがあります。例えばAIの普及度や浸透度などを海外と比べた時、アメリカと比べた場合は当然ですが、中国と比べた場合でさえ、「日本は大丈夫かな?」と思ってしまう。

 日経BPの雑誌やWebサイトに掲載した「AIに関連する記事」を、どの業種の人たちが、どの程度読んでいるかをトラッキングしたデータがあります。これを見ると、介護、福祉、流通、建築関係の仕事をしている方々が、すごくたくさん記事を読んでくれている。一方で、電子、機械などAIの技術の開発者に近い方々は、こういった記事を読むことが減っているようなんです。

 この意味するところは、「AIというのテクノロジーそれ自体がトピックになる」というフェーズから、「AIを使う」というフェーズへ移行してきているということではないか、と考えています。

 田中さんはAIを活用する側のお立場です。いかがでしょうか、危機感を覚えていますか?
リテールAI研究会 代表理事 田中雄策氏
田中 リテールAI研究会の代表理事をしている田中です。リテールAI研究会というのは、リアル小売店舗でのAI活用方法を調査・研究する組織です。

 2016年にAmazon.comが無人店舗「Amazon Go」を発表したことで、小売業界でAIへの関心が急速に高まりました。そこで、AIなどの最新テクノロジーに関する情報を共有する場を作ろうということで組織したのがリテールAI研究会です。

 河井さんのご質問にあった「危機感」でいうと、AIには学習データが必要なので、早く導入してトライアンドエラーを積み重ねないと、先行者利益は得られないと考えています。「簡単に」というと語弊があるのですが、AI関連テクノロジーにはオープンソースのものが存在していますから、導入にそれほどコストがかかるものではありません。
河井 森さんは、危機感は持っていますか?
楽天株式会社 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表 森正弥氏
 楽天の技術戦略担当役員の森です。現在は世界5カ国、150人以上で構成している技術開発を目的とした組織を統括しています。

 2017年〜2018年の状況を見るに、製造業などではAIの活用が結構進んだ印象があります。ただ、やはり海外に比べるとそのペースは絶望的に遅い(笑)。挽回できないくらい差が開いています。しかも、世界はディープラーニングのさらに先へ、「GAN/VAE」(※)などを活用する方向に進んでいます。

※GAN:「Generative Adversarial Network」の略で、「敵対的生成ネットワーク」と訳される。ディープラーニングで利用できるアルゴリズムで、データが少ない場合、GANを用いてデータを激増させることができる。VAEも同じくディープラーニングの生成モデルのひとつで「Variational Auto Encoder」の略。

河井 井上先生はどのようにお考えでしょう?
駒澤大学 経済学部 准教授 井上智洋氏
井上 駒澤大学で経済学を教えている井上です。専門はマクロ経済学なのですが、副業として、経済学者の立場からAIについて論じる仕事をしています。

 日本だと、まだ一部の先進的な企業だけがAIを取り入れている印象です。よくある話ですが、上司が部下に対して「AIで何かやってみろ!」と言うんだけど、部下はどうしたらいいのかわからない(笑)。途方に暮れている中小企業は山ほどある状況だと思います。そういう中小企業の方々に対して、AIは簡単に活用できるんだと啓発していく場が必要だと思っています。AIについて学ぶ場がないと、なかなか普及しないのかな、と。

 また、AI以前の課題として、多くの日本企業の仕事がそもそもあまりIT化されていません。書類を郵送でやり取りしていたり、電子メールすらちゃんと使えたりしていない企業もたくさんあります。

2012年の“インパクト”

ニュースアプリ「SmartNews」で知られるスマートニュースのイベントスペースに約70人の参加者が来場、識者の討議を熱心に聞いていた
 ディープラーニングが話題になったのは、2012年にトロント大学のジェフリー・ヒントン教授の研究室が、画像認識コンテスト(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)で圧倒的な結果を出したのがきっかけです。

 この画像認識のディープラーニングが話題になったとき、我々が驚いたことがあります。というのも、従来は大量のデータをいかに整理するかが大事だと考えられていたのですが、整理すればするほど精度が下がっていくという問題がありました。我々が何に衝撃を受けたかというと、整理されていないノイズが入ったままのデータをそのまま学習させた方が精度が高かったということです。このことによって、ディープラーニングがビジネスモデルや産業構造そのものを変えてしまう存在だということに気が付いたんですね。

田中 孫正義(ソフトバンクグループ会長)さんも、AIによってすべての産業構造が変わるとはっきりおっしゃっていましたね。マーケティングの手法そのものが変わってしまう恐れがある、と。

河井 なるほど。産業構造が変わるといっても、我々としてはちょっとピンとこないところもある気がするのですが。

井上 「第4次産業革命」という言葉があります。この第4次産業革命は既に始まっているという説もあるのですが、マクロ経済学の立場から考えると、どうもそうは思えない。というのも、これだけ世間でAIについて騒がれているにも関わらず、今のところAIで生産性が向上したとか、日本の経済成長率が上昇したという報告は一切ないんです。なので、まだAIの技術は日本経済にそこまでのインパクトをもたらしていない状況だと、私は考えています。

 IT革命や情報技術革命を「第3次産業革命」だとすると、我々はまだその途中にいるのではないでしょうか。IT化を完了させるだけでも、かなりのインパクトがあるはずです。AIの活用というのは、その先にある話だと思います。

 今のAIがいちばん得意としているのは、画像認識ですよね。でも、画像認識の技術が潜在的に使える場面で、まだその1/1000も活用できていないのではないでしょうか。それにはまだまだ時間がかかる。これから人工知能の技術が一切進歩しなかったとしても、今ある画像認識の技術がいろいろなところで適用されるようになるだけでも、世の中は大きく変わるはずです。5〜10年くらい先に、ようやく日本経済全体に大きな影響を及ぼすような統計が出てくると思います。

 画像データ自体は、インターネット上で大量に手に入れることができます。ただ、画像認識に使うことができるのは画像だけではありません。データを2次元にマッピングできれば、どんなデータにも画像認識の手法を使うことができます。人間には理解できないけれどディープラーニングには理解できる……なんてことも起こるので、「人間とは?」なんて考えてしまうのですが(笑)

田中 リアル店舗での活用例でいうと、商品を手にとってカートに入れるたびにバーコードを読ませてスキャンすると、レジを通らずに会計を済ませられるというシステムがあります。このシステムを使うと、カートに入れる商品をその場で順番にスキャンしていくので、お客様がどこの売り場に何分立ち寄って、どういう経路で店舗を巡回したのかがわかります。すると、今まで効果的だと思っていた店内レイアウトが、実は最適ではなかったと気付くことがあるんですね。人の行動パターンを分析できるようになるわけです。

「人間にしかできない仕事」とは?

 前編では、日本のAI活用に関する危機感や、画像認識のテクノロジーについての話題が盛り上がった。後編ではさらに深くAIの普及、ひいては普及後の「AI社会」の課題、そして「人間にしかできない仕事」に関する討議の模様をお伝えする。


チェコ好き
(撮影:鷲崎 浩太朗)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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