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Ideas 公開日: 2020.05.27

アフターコロナ、オフィスはバーチャル空間に

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新型コロナウイルス感染症の拡大でリモートワーク(テレワーク、在宅勤務)が浸透してきた中、仮想のオフィスに「出社」する新しい働き方も広がりつつある。

リモートワークの普及で新たな課題も浮き彫りに

 新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が出された直後に、株式会社パーソル総合研究所が実施した緊急事態宣言(7都府県)後のテレワークの実態についての調査では、4月半ば時点での国内のリモートワーカーは約760万人に達した。3月半ばから4月半ばまでの約1カ月間で、リモートワーク人口が約400万人も増加していることになる。

 リモートワークには、「人との接触を減らせる」「通勤ラッシュから解放される」などメリットがある一方で、課題もあるとされている。パーソル総合研究所の調査では、リモートワークの導入後に「上司・同僚とのやりとりの頻度が少なくなったこと」「組織の一体感や仕事への意欲が低下したこと」に不安を覚えるという回答が多かった。リモートワークが生む課題も浮き彫りになった形だ。

 今、こうした課題を解消するツールとして注目されているのが、バーチャルオフィスやデジタルワークプレイスと呼ばれるものだ。これは、バーチャル空間に設置されたオフィスやコワーキングスペース、デジタルワークプレイスにスタッフが集い、あたかもオフィスに出勤しているかのようにコミュニケーションを取りながら働くことができるシステムだ。VR(Virtual Reality:仮想現実)などのテクノロジーを活用しているケースも多い。

自身の分身がバーチャルオフィスで働く

 こうしたバーチャルオフィスのアプリケーションでは、アメリカのスタートアップ・Immersed社のImmersedが広く知られている。もともとは、自社の社員がリモートワークをするに当たって、バーチャルオフィスの必要性を感じて開発したものだ。SkypeやZoomのような顔を見て話すだけの会議ツールと比べて、社員同士が実際のオフィスに出社しているかのように、お互いを近くに感じながら仕事ができるのが魅力だという。

 実際に利用するには、現時点ではVR用ヘッドセット「Oculus Quest」または「Oculus Go」が必要だ。VR用ヘッドセットを装着すると、自分の目の前に仮想のオフィスが広がる。そのバーチャルオフィスには、バーチャルな同僚も、バーチャルな自分もいる。そして、専用コントローラーで操作すれば、バーチャルな自分の手足が動き、バーチャルオフィス内のモニター、共有スクリーン、ホワイトボードなどを利用して業務ができる。

 一般的にVRを体感するためには、高性能なゲーミングPCや特別なコントローラー、高価なヘッドセットなどを用意する必要がある。今後、Immersed社のアプリは、一般的なノートパソコンでの利用にも対応し、VRゲームをしたことがない人でも簡単に操作できるように開発を進めることを予定している。
同社のWebサイト(https://immersedvr.com/)では、14日間無料で利用できるトライアル版をダウンロードできる(2020年5月21日現在)。

9000人の社員がバーチャル勤務をする不動産会社

 実際に物理的なオフィスを持たずに、仮想空間だけでほぼ完全に会社を運営している不動産会社もいる。アメリカの不動産会社のeXp Reality社だ。

 同社は、2008年のリーマンショックの引き金ともなったアメリカの「サブプライムローン問題」による住宅バブル崩壊後に設立された。当時、オフィスを設置する資金がなかったこと、再び同様の経済危機が起こった際に固定費がかかるリアルな社屋を構えるよりも事業へのダメージが少ないと考えて、2010年にバーチャルオフィスを設置したという。

 eXp Reality社の社員数は、約1万2000人。業務で必要な契約書類などの保管のための場所はワシントンD.C.に設けているものの、社員の4分の3にあたる約9000人がバーチャルオフィスに出勤して日々の業務を行っている。最新のVR用ヘッドセットにも対応している同社のバーチャルオフィスだが、ほとんどの社員はパソコンのウェブブラウザーでアクセスし、アバターを使って勤務しているという。また、社員のみならず、同社のパートナー企業となる建設業者や不動産エージェントもバーチャルオフィスで会議や研修を受けているそうだ。

日本にもオフィスレスの企業が存在

 日本国内でもバーチャルオフィスを活用して、事業を展開している企業がいる。システム開発会社のソニックガーデンだ。同社は、社内システムやウェブサイトの会員システム、アプリなどの開発を手掛けているが、競合する他のシステム開発会社との差別化を図るために「納品のない受託開発」を実践している。

 これは、一般的なシステム開発会社が採るようなシステム開発を一括で受注して完成したシステムを納品して終了するスタイルとは異なり、必要な機能を必要な順番で少しずつ開発をしていくものだ。費用は月額固定制で、契約が継続している間はシステムの変更や機能追加も、その費用の範囲内でまかなう。

 この独特なビジネススタイルを実践していく過程で、同社は発注元とのシステムの要件定義のために行う打ち合わせや開発の進捗報告のための会議など、発注元との「対面」が必要だった業務を徹底的に削減した。さらに、自社でバーチャルオフィスのアプリケーション「Remotty」を開発し、社内に導入。2016年から本社オフィスを完全になくした。現在、40~50名の社員全員がバーチャルオフィスに出社して業務を行っている。
 ソニックガーデンでは、Remottyを開発・導入する以前から、テレビ会議システムやチャットなどを活用してリモートワークに取り組んでいたという。その際に課題として浮かび上がったのは、冒頭で紹介した調査結果でも挙げられていた社員同士による「コミュニケーションの活性化」だった。

 実際のオフィスで働いているように、テレビ会議システムをつなぎっぱなしにして、いつでも好きなタイミングで同僚に話しかけることができるような工夫も取り入れたが、かえってシステムの運用が煩雑になってしまった。オフィスを撤廃しようと試行錯誤する中で、リアルなオフィスに集い、何気なく会話すること、雑談することにも意義があることにも気が付いたという。

 そこでバーチャルオフィスを導入して、これらの課題を解決しようとRemottyを開発・導入。毎朝、社員がきちんとバーチャルオフィスに出社し、チャット機能で雑談などをしながら仕事を始めている。打ち合わせなどはテレビ会議機能を使って行い、その日の業務が終われば、社員は順次、画面上から消えて「帰宅」していく。現在では、リアルなオフィスの代わりにバーチャルオフィスへ出社することで、Remottyを開発・導入する以前にあったコミュニケーションの課題は解消されているという。
Remottyプロダクト画面

アフターコロナに変わる働き方、そしてオフィスの在り方

 先述したパーソル総合研究所の調査では、新型コロナウイルス感染症による緊急事態が収束した後も「リモートワークを続けたい」と意向を示した人は53.2%に達した。特に、20代と30代では6割を超えていた。リモートワークという働き方が比較的若い世代の従業員から支持されていることもあり、今後はリモートワークを導入する企業の割合が増えていくことが予想される。

 しかし、それと同時に、社員同士のコミュニケーション、業務の進捗管理や情報共有、社員の一体感の醸成など、すでにリモートワークの課題とされているものが、改めてその過程で浮き彫りになることも考えられる。

 バーチャルオフィスは、そのような課題を解決する一つの手段になり得るかもしれない。そして、これから訪れるアフターコロナ時代における新しいオフィスの在り方として定着していく可能性も十分に秘めていると言えるであろう。


関村 のり=タンクフル

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