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Ideas 公開日: 2020.11.17

5GとMEC(Multi-Access Edge Computing)で実現できること

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5Gの本格普及の鍵を握るとされるのが「MEC」。「超低遅延」を実現する技術は5Gの可能性をどこまで広げるのか。

5Gの特徴を最大限に引き出し、「超低遅延」を実現するMEC

 2020年春に商用サービス開始、10月には通信キャリア各社から対応機種が発売され、本格的な普及が始まった5G(第5世代移動通信システム)。「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」といった特長から、リモートワーク環境の整備、遠隔医療、建設機器等の遠隔制御、スマートファクトリーなど、ビジネスにおけるさまざまユースケースの実現が期待されている。

 ただし、こうしたユースケースの多くは、クラウド上のサーバーとの通信を介して提供される。「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」を謳っている5Gではあるが、無線通信である以上は同時に通信を利用するユーザー数の増加に比例して、ネットワークの輻輳(混雑)が発生し、スピードの遅延につながる恐れがある。ネットワークの輻輳はインターネットにおけるボトルネックであり、これを解消するためには、「MEC(Multi-Access Edge Computing)」と呼ばれるエッジコンピューティングの活用が重要となる。

 エッジコンピューティングとは、必要なデータのみをクラウドに送るため事前にエッジ(ユーザーや端末の近くなどに配置したサーバー)で可能な限りの処理を行うネットワーク技術だ。IoT機器などで大量に収集したデータを全てクラウド上のサーバーに送るのではなく、いったんエッジに集めて処理し、必要なデータのみをやり取りすることでストレスのない通信を実現する。

 5G環境下におけるエッジコンピューティングの重要性を受け、ネットワークやコンピューターの機器メーカーがMECサーバーと呼ばれる機器を開発、提供している。MECサーバーを活用することで、スマートフォンやIoT機器、タブレット端末、ノートパソコンなど、さまざまな端末から膨大なデータが送られてきても、MECサーバーで処理することで高速通信が可能になる。

 MECはETSI(欧州電気通信標準化機構)が5G携帯端末のエッジコンピューティング規格のために標準化を進めていた技法で、一定エリア内の通信処理の効率化だけでなく、これまでクラウド上で実行されていた処理の一部をエッジ側で担うことにより、リアルタイム性が求められる処理、例えば自動車の自動運転や、スマートファクトリー、遠隔医療などの実現に期待が高まる。

通信キャリアと企業・自治体・大学がMECを活用した実証実験を実施

 5Gの本格普及に向けてMECの重要性が高まる中、通信キャリア各社も自社のモバイルネットワークでMECサーバーの設置と活用を進めている。ソフトバンクでは、クラウドゲームサービス「GeForce NOW Powered by SoftBank」にMECを利用しているほか、楽天モバイルでは、仮想化されたRAN(Radio Access Network:無線アクセスネットワーク)を活用し、日本全国4000箇所以上にMEC環境を構築する計画を発表。楽天モバイルでは基地局を構成する無線通信処理設備に汎用サーバーを用いており、ここにソフトウェアを追加することでMEC用のエッジサーバーとして活用するという。

 MECを活用した実証実験も進められている。IoTプラットフォームサービスを開発するソラコムは、2020年7月14日のオンラインイベントでKDDIのネットワークを利用したMVNO事業を開始することを発表。同時にKDDIと共同でMECの実証実験を行っていることにも触れた。これは、KDDIの5GネットワークとAWS(Amazon Web Services)が提供するエッジコンピューティングサービス「AWS Wavelength」を利用し、AWS Wavelengthにソラコムのクラウド型コアネットワークを実装することで、超低遅延アプリケーションの実証実験を行うというものだ。

 また、ソフトバンクは次世代ネットワーク・サービスAXGPを提供するWireless City Planning、車両の動力伝達装置であるパワートレインに関する事業を行うエフ・イー・ヴイ・ジャパンとともに2020年3月に実証実験を実施。福岡県北九州市および北九州産業学術推進機構の支援の下、5Gを活用した車両の遠隔運転の応用事例に関するフィールド実証実験を行った。

 これは、路上に放置された車両を遠隔操作センターから車載カメラ画像を見ながら遠隔操作し駐車場に移動するというもの。5G通信を使ってリアルタイムに車載カメラからの4K動画像を伝送する必要があるため、遠隔操作センターにMECが設置されている。今回の実証実験を受け、5Gを使った遠隔操作を活用し、災害時における迅速な道路警戒の実現や、平常時の自動運転の補完への応用も見込まれている。

 ソフトバンクは他にも慶應義塾大学SFC研究所と5Gを活用したユースケースの共同研究を2020年2月から開始している。これはソフトバンクが開発した可搬型5G設備とMECサーバーを導入し、慶應義塾大学SFC構内に自営の5Gネットワークをスタンドアローンで構築するというもの。

 構築された5Gネットワークは既存ネットワークに組み込まれ、構内に設置されたカメラ映像を収集し、バス停や駐車場の混雑状況の可視化や構内における安心・安全に関する情報配信への活用などについて実証実験が行われた。また、学生向けに5G・MECサーバーを開放し、新たなユースケースの開発検証も計画されている。

MECで広がる5Gのユースケース。地上波テレビの5G同時配信も可能に

 5GとMECを使ったユニークな実証実験としては、5Gを用いた地上波テレビ番組の同時配信実験が挙げられる。これは、TBSテレビがNECとインターネットイニシアティブ(IIJ)と共同で行った実験だ。地上デジタル放送の電波をローカル5G基地局で受信し、MECサーバから同時配信を行うことで、該当地域に特化した災害情報へリアルタイムで内容を差し替えた放送を行うことに成功した。
地域に特化した放送イメージ(出典:TBSテレビプレスリリース)
 5Gによる地上波テレビの同時配信は、さまざまな活用が期待されている。例えば、災害時に停電などでテレビが使用できない場合でも、避難所のローカル5GとMECサーバを活用することで緊急特番を視聴することができる。さらには、自治体のローカル5Gと連携することで、住民に対するより迅速な情報提供の実現も期待できるという。

 このように、さまざまな実証実験が進められ、ユースケースの幅も広がっている5GとMECだが、肝心の5Gネットワークの本格的な普及にはまだ少し時間がかかりそうだ。IDC Japanは2024年末には5Gネットワークの回線数が6024万回線に達し、国内モバイル通信サービス市場全体の26.5%を占めると予測している。

 ただし、ビジネスシーンでの利用の期待値は高い。IDC Japanが従業員数50人以上の企業を対象に実施した調査によると、5Gをビジネスで利用する意向があるとしている企業は53.0%で半数を超えている。これは、AI(人工知能)をビジネスで活用したいと考えている企業の割合が54.2%だったのに次ぐ高水準で、「Wi-Fi6の利用を考えている企業」の46.1%、「ロボティクスを活用したい企業」の44.0%よりも高い。IDC Japan によると「ビジネスへの利用意向は高いと判断している」という。

 ビジネスでの利用の期待値が高まっているだけに、5Gネットワークが本格的に普及し、MECの活用がさらに浸透すれば、5Gの活用の幅はますます広がる。ビジネスシーンでの本格的な活用もさらに加速するだろう。


川口 裕樹=タンクフル

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