デジタル技術は、私たちの暮らしの様々な面に影響を及ぼす。自動運転、クルマの自動駐車、無人店舗、キャッシュレス、シェアリングエコノミーなどは、目に見える形で生活シーンを変える代表例である。ほかに、少し生活から離れたBtoBの世界でも、工場をはじめとする作業の効率化、インフラの状態監視、農業の自動化、創薬支援、医師同士の業務支援など、影響範囲はいくつも挙げられる。


 そうして変えられるものとしては、人間の身体も該当する。つまり、デジタル技術で人間を“アップデート”するわけだ。もちろん、デジタル技術の使い方はいろいろあり得る。脳波での情報伝達、記憶容量の増強、各種身体能力の補完・補助あるいは増強……。SF小説やアニメの世界観で捉えれば、いくつも思い浮かぶだろう。


 そして、それらは決して夢物語ではない。少しずつ現実のものに近づきつつある。そんな中で、「行き着く先はサイボーグ社会」というビジョンを掲げ、そのための技術開発に注力しているスタートアップ企業がある。メルティんMMI(以下、MELTIN)だ。社名のMELTINは、サイボーグ技術によって身体と機械が「溶け合う(MELT IN)」こと。MMIは「マン・マシン・インタフェース(Man Machine Interface)」を指す。


 現在、同社が手がけている事業は大きく2つ。一つは筋電義手。もうひとつはアバターロボットである。筋電義手は、身体に装着すれば、あとは頭で考えるだけで(もしかすると考える必要もなく)、生体を流れる信号を読み取って本来の生身の腕と同じように動く、「機械の腕」である。一方のアバターロボットは、ヘッドマウントディスプレイや、手の動きを読み取ったり手に状況を伝えたりできるグローブを身に着け、隔れた場所にある人型のロボットを動かしたり、ロボットの体験を人に体感させたりするロボットである。どちらも、人間を“アップデート”するためのものと考えるとわかりやすいかもしれない。


「人間は、身体という制約を抱えて生きています。サイボーグは、その制約から人類を解き放ち、人類が自身の創造性を無限に発揮するきっかけをつくる技術です」


 MELTINの粕谷昌宏社長は、力強くこう語る。


「人類は古くから道具をつくり出し、文明を生み、不可能と思えた夢をテクノロジーの力で乗り越えてきましたが、テクノロジーの方向性を変える必要があります。これまでの文明や技術は、人間の身体ありきで、人間の外部環境を身体に適合するように変えるものでした。ですが今や、環境を変える技術は限界に近づいています。これからの技術は、身体の外部環境を変えるのではなく、身体そのものを変える方向に進むべきです」


 では、彼らが描くサイボーグ社会はどのようなものか。身体のアップデートが当たり前になった私たちの暮らしはどのように変わっていくのか。MELTINの粕谷昌宏社長とチーフクリエイティブオフィサーを務める田崎佑樹氏に聞いた。

異なる領域の2つの事業を同時並行

まず、MELTINの事業について教えてください。どのようなビジネスを展開されているのでしょう?


粕谷:直近では筋電義手をはじめとする医療機器とアバターロボットの2つを事業の軸にしています。


アバターロボットとは何でしょうか?


粕谷:人が遠隔操作で操作するロボットのことです。災害の現場や、高所・高温・低温さらには汚染地域など、生身の人間が作業するには危険あるいは過酷な環境で、人に代わって作業を担います。宇宙や深海などの極限環境での作業も視野に入れています。クローズドに進めているプロジェクトが多いのですが、公表されているものとしては、全日本空輸(ANA)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)と組んで、宇宙空間でアバターロボットを活用した事業を共創するプロジェクトを進めています(詳細はこちら)。


アバターロボットは、いま世の中で使われているロボットとどう違うのでしょうか?


粕谷:既存のロボットには、人間の作業を代替できるほどの判断能力と作業能力を備えたものはありません。その点、私たちが開発したアバターロボット「MELTANT-α」は、人による遠隔操作なので判断能力については人と同等と言えます。作業能力についても、MELTANT-αの「手」は、他社のロボットのそれを圧倒する性能を備えています。複雑な動きとパワーに加え、リアルタイム性と耐久性に優れ、かつ小型・軽量です。


 それを可能にしているのが、筋電義手に採用している、人の筋肉の仕組みを模倣したワイヤーロボット制御技術です。一般的には、駆動関節数すなわち操作の自由度と、握力すなわちパワーはトレードオフの関係にあります。つまり、自由度を追求するとパワーが犠牲になり、パワーを求めると自由度が下がります。当社の技術はこのトレードオフを克服し、自由度とパワーを高い次元で両立させています。


医療機器の事業展開についてはいかがですか?筋電義手のほかにも、下半身麻痺の方が車椅子に乗って足で車輪を漕ぐ動画を公開されていますが。


粕谷:病気や事故で手足を失った、あるいは神経が麻痺した方が、生活を不自由なく送れるような補助機器の開発を進めています。こちらはすべてのプロジェクトをクローズドで進めていて、取組内容についての詳細は、あまりお話しできない状況です。


事業の進捗度は、アバターロボットと同じぐらいでしょうか?


粕谷:同じくらいです。私たちが目指しているサイボーグの社会実装のためにはどちらの事業も必要ですので、会社としては同等のリソースを投入して同じようなペースで事業を進めています。

本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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