取締役で免疫学の研究者、そして「ヒューマノーム」という言葉の産みの親でもある井上 浄氏

山形の温泉街で始まった壮大な試み

事業の現状についても教えてください。


井上氏 BtoCのサービスイメージを語りましたが、いきなり個人向けにサービスを始めるのは難しいので、まずはBtoBで事業をつくりながら、個人向けにも提供できる事業モデルを模索しています。技術的にやれること、やりたいことは山ほどありますが、事業としての出口をしっかり作り、それを継続しながら新しいことにチャレンジしていこうと考えています。


瀬々氏 具体的な事業としては、メタジェンやニューロスペースのようなベンチャーと共同研究をしたり、データ解析などのコンサルティングサービスを提供したりしています。それから、企業の多くが社員の健康をリスク要因として捉えるようになっていますから、「健康経営」の枠組みで、社員の健康管理や健康データ解析を任せてもらうこともサービスとして提供できると考えています。


井上氏 その次の大きなステップとして取り組んだのが、2018年末から2019年の初めにかけて実施した研究プロジェクトです。経済産業省の「平成30年度健康寿命延伸産業創出推進事業(産学連携・データ駆動型のイノベーション創出基盤構築事業)」に採択され、山形県鶴岡市湯野浜の温泉街で、旅館で働く25人を対象に、4週間かけて「食べる・眠る・働く」のデータを集めました。


 参加してくれた25人には、集めたデータの解析結果をお返しします。まずは、メタジェンやニューロスペースなどのベンチャーがまとめた個別のレポートの形です。そのうえで、ヒューマノーム研究所としては個々のデータの相関関係を調べ、何か重要なことが見えたら参加者のみなさんにもフィードバックしていきます。


非常に高度な健康診断というイメージで理解は合っているでしょうか?


井上氏 そのイメージで合っています。この事業を旅館でやっていることにも、実は意味があります。旅館の一室を診療所にするんですね。実際に部屋を改造しようかという話も出ています。そうすると、かなり本格的なヘルスツーリズムに発展させられるかもしれない。1週間ぐらい長期滞在してもらえば、何から何まで調べて個々のデータの関連が分かりますよというレベルにまで持っていきたい。


 湯野浜でやるのは地域活性化の狙いもあります。2代目や3代目の旅館の社長たちの気合いの入り方がすごくて、面白い展開にしていけるのではないかと。


瀬々氏 もう少しライトな形もあり得ます。温泉旅行に申し込んだらFitbitが送られてきて、それを着けて温泉旅館に行くと健康状態をチェックしてもらえて、温泉と食事で健康になって帰ってきます、みたいなことですね。ふわっとしたイメージに聞こえるでしょうけれど、そこに確かなデータがあれば、それがエビデンスになります。


お年寄りが孤食になってボケが早まっているという話もありますね。孤食の影響を確かめたり、その対策としてサービスを提供したりすることもできそうですね。


井上氏 これを医師主導ではなく、地域主導で取り入れられるシステムにできれば、いろいろなお金の使い方ができると思います。


瀬々氏 孤食対策でこうしたシステムを入れることには抵抗があるかもしれませんが、高齢者向けのデイケアサービスも含めて、デバイスをつけて参加者で健康状態を競い合うみたいな形にできれば、みながハッピーになると思います。そういうサービスに発展させていきたいですね。


いまは集めたデータを解析中だと思うのですが、現段階で何か見えてきたことがあれば教えてください。


瀬々氏 データとしてはこれからですが、明らかに面白いことがあります。みなさん山形なので漬物文化で、食事としては塩分過多、実際にみなさん高血圧です。でもみなさんとてもお元気で。血圧と健康の関係に一石を投じる結果になるかもしれません。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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