アカデミアと企業、ウェットとドライをつなぐ

ヒューマノーム研究所の活動はとても学術的です。にもかかわらず株式会社として立ち上げたのはなぜですか?


井上氏 日本の研究のあり方を変えていきたい、ということに尽きます。これからの時代、アカデミアか企業かの二者択一ではなく、アカデミアと企業の両方を手がけることが重要だと僕らは考えています。次の技術のタネを作るには基礎研究がとても重要です。一方で、その生まれてきた技術のタネを社会実装にまで持っていくには、それを商品やサービスに作り上げていく必要があります。


瀬々氏 僕らが目指しているのは、「世界のための研究に民間で取り組む」ことです。民間企業であるヒューマノーム研究所が、そのように認知されるようになれば、日本の研究のあり方も変わっていくはずです。


井上氏 最近は、アカデミアと企業の両方にポジションを持つ研究者が増えています。メタジェンの経営者も、大学で研究を続けながら会社を経営しています。ヘルスケアもしくは生命科学の分野で、そういう仲間を増やして日本の研究のあり方を変えていく。それもヒューマノーム研究所で目指していることです。


瀬々氏 もう一つ、ヒューマノーム研究所が融合を目指していることがあります。生命科学の「ウェット」と「ドライ」の両方を担っていく存在でありたいということです。ウェットとは、多くの人がイメージする実験を伴う生物学研究です。生きた個体や組織や細胞を扱い、さまざまな試薬を使う。ドライはその反対で、実験を伴わない理論や計算による研究です。コンピュータによるゲノム解析などがその典型例です。ヒューマノーム研究所は、この2つをつなぐ存在でありたいし、そうあらねばならないと思っています。


 というのも、ウェットとドライは同じ生命現象を対象にしていていも、マインドやアプローチが大きく異なっていて、なかなか言葉が通じないのが現実です。ウェットな研究者は実験が大好きですが、ドライな研究者はコンピュータの中で考えがちです。実験は、サンプルを多く集めて片っ端から反応を見ていくような地道な作業の連続ですが、計算機でプログラムを組むそもそもの発想は作業を効率化して人間が楽をすることにあります。アプローチが正反対ですから、それぞれの研究者を寄せ集めただけでは話が通じる素地がないわけです。この会社では、ウェットとドライの両方を分かる人を集めて育て、両者をつないで融合することが、僕らのもうひとつのチャレンジです。


ヒューマノーム研究所取締役の井上 浄氏

井上氏 ヒューマノーム研究所の役割分担で言うと、僕は免疫の研究者でウェットが大好きでそこに専門性を持っています。でもドライは弱い。そこを瀬々が担っています。瀬々はドライに軸足を置いていますが、生命科学も大好きで、ウェットとドライをつなぐ重要な役割を担っています。


 メタジェンやニューロスペースなどのベンチャーは、ウェットなフィールドで戦っています。彼らとの橋渡し役を担うのは僕の役割です。「こういうデータが取れると面白いよね」という話をウェットの言葉に翻訳して話をする。データが取れてきたら、瀬々が中心になって統合解析する。こんなふうに、ウェットとドライをつないでいます。


 ウェットとドライ。そして、アカデミアと企業。この4つの全部が分かる研究者が、これからの時代に必要な次世代の研究者だと思います。僕らがそれを率先してやろうとしているわけですが、僕らの世代だけで完結できることではないと思っています。


 大切なのは「次世代」につないでいくことです。今の学生が僕らの取り組みを見てその後に続いてくれれば、5年10年経てば彼らは立派なプレーヤーになります。だからこそ、ウェットとドライの両方が分かり、アカデミアで芽吹かせたタネを社会に実装していくロールモデルを、なんとしても学生たちに見せなければいけない。その道に続く人材が育ってサイクルが回りだせば、日本をもう一度科学技術立国させられるのではないかと思います。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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