ロケット開発の肝はエンジン、JAXAが技術協力

ロケットの開発状況やZEROの打ち上げ予定を教えてもらえますか?


稲川 MOMOは年内に4号機を打ち上げて連続成功させ、商業化を進めます。同時並行でZEROの開発も進めています。ZEROのエンジンは、MOMOの5倍の推力が必要になります。ZERO初号機の打ち上げは2023年を目指し、2019年3月にZERO用エンジンの火入れを行いました。


火入れですか。

稲川 着火するかどうか確認する点火試験のことです。北海道大樹町の開発拠点にはMOMO用の1t級のエンジン燃焼試験設備しかなかったのですが、ZERO用6t級の設備ができたのは大きな前進です。


ZEROの要はエンジンですか?


稲川 はい。エンジン開発は時間とお金がかかりますから。エンジンの燃焼機の技術はMOMOである程度獲得したので、完全な新規開発となるターボポンプが肝と思っています。


ターボポンプは燃料をタンクからエンジンに送る機器で、人間でいえば心臓のような役割を果たす部分ですね。


稲川 そうですね。ターボポンプを含めたエンジンについてJAXA(宇宙航空研究開発機構)角田宇宙センターの技術協力を受けることになっています。


それは心強い。なぜ角田宇宙センターと?


稲川 日本の歴代の液体ロケットエンジンは、角田から生まれています。さらに現在開発が進められている日本の新型基幹ロケットH-3のエンジンやターボポンプの試験も角田で行われている。つまり日本で液体ロケットやターボポンプの技術や知見が最も集積した場所なのです。角田のエンジニアの方たちの技術協力を受けることで、その技術の一部を獲得したいと思っています。


技術協力の中身は?


稲川 一つはエンジニアの受け入れです。うち(IST)からエンジニアを角田宇宙センターに派遣して、角田のエンジニアの方々と一緒に意見交換しながら研究や試験などを行っていく。もう一つはエンジンの試験モデルの製作です。ZEROでは低コストのロケットエンジンが必要です。JAXAさんはZEROのような超小型衛星打上げロケットをモデルケースにして、低コストで小型のエンジンを研究テーマとして試作されることになります。


つまり、JAXAにとっては研究課題?


稲川 JAXAさんは我々のために開発するのではなく、次世代の使い捨てロケットとして、従来より一桁、二桁低コストのロケットエンジンを必要とされています。ZEROはそのためのモデルケースで、JAXAさんの研究テーマになる。一緒に研究開発したものが技術移転できれば、JAXAが研究した意義も出てくるのではないかと思います。


なるほど、研究した低コストエンジンを実際に打ち上げて実証する機会も、両者にとって貴重な機会になりますよね。ISTでも独自にエンジンを開発するんですか?


稲川 はい。JAXAさんに任せきりでなく、並行して開発します。


それぞれの試験結果を共有することで開発のプロセスも学べそうですね。エンジニアの派遣はいつから?


稲川 MOMO3号機の打ち上げ後という話になっていたので、これからですね。今年度から来年度にかけて、エンジン燃焼機やターボポンプの試験を行っていきます。


開発中のZEROの概要(提供:インターステラテクノロジズ)

資金調達を成功させたい

ZEROを実現するためのほかの課題は?


稲川 課題は少ないと思っています。MOMOの打ち上げでアビオニクス(電子機器)や無線、構造などについて実証できました。ZEROはMOMOの2倍強の長さで重量は約30倍以上。エンジンの推力も5倍と大型化しますが、ロケットの基本は変わりません。要素としてはタンクとエンジンがついた細長い筒(笑)。今回のMOMO成功が大きな実証になり、自信になっています。


ZERO開発にあたり「みんなのロケットパートナーズ」を立ち上げられましたね。


稲川 ZEROはMOMOより一桁コストが多くかかり、エンジニアの人数も必要になります。これまでMOMOは単独主義で何もないところから自分たちだけで開発し、ある程度はできたと思います。2号機の失敗後、JAXAのロケットを開発してきたエンジニアの方々による外部原因対策委員会を立ち上げました。ZEROはもっと本格的に、多くの方々の知見を得て一緒に進めることで、開発を効率化させたいと「みんなのロケットパートナーズ」を作りました。現在、JAXA、丸紅、ユーグレナなど8つの企業、団体に参加いただいています。


堀江貴文さんがファウンダーであることから「ホリエモンロケット」と呼ばれることが多いですが、「みんなのロケット」であると。MOMO3号機成功後、大きな反響があったと思いますが、稲川さんにとって一番うれしかったことは?


稲川 成功で流れが変わると思ってましたが予想以上でした。ただ、僕自身は大きな資金調達がまだできていないので、手放しでは喜べない。


衛星や月探査機は大規模な資金調達に成功するのに、なぜロケットは難しいのでしょう。


稲川 一つにはロケットの開発期間の長さがあると思います。米国はロングスパンの事業でも資金調達に支障はありませんが、日本は3~5年で投資した資金を回収し利益が出ることが求められます。でもロケットでは5年以内に上場やM&Aなどの形で投資家の利益になるのが難しい。日本がスタートアップになかなか投資しない文化も一因だと思います。


そもそも衛星や探査機は、ロケットで宇宙に届けられないと仕事ができないのに。


稲川 ロケットは結局インフラで、出口がわかりにくいかもしれません。


2種類のロケット開発計画。資金調達に成功すれば現在20人強の従業員の数も増やしていきたいそう(提供:インターステラテクノロジズ)

MOMO3号機の成功で資金調達も進むのではないでしょうか?


稲川 前向きに進みます。資金調達のために、開発の現場である北海道から東京にも来ているわけで。


米スペースXがNASA(航空宇宙局)からISS(国際宇宙ステーション)への貨物輸送の契約を得て技術的にも資金的にも大きく成長したように、国によるアンカーテナンシー(調達の補償)を期待したいですね。日本は宇宙ビジネスで優位に立てるでしょうか?


稲川 世界一になるポテンシャルは十分にあると思っています。宇宙産業は材料や工作機械など様々な産業を集積して初めて一つの製品になる、インテグレーション産業です。車もそうですよね。産業基盤がいかにあるかが重要で、日本はコンパクトにひと通りそろっている。さらに小型化に強い。小型衛星は日本の得意分野ですがロケットにも言える。


稲川さんの目標はなんでしょう


稲川 僕は宇宙を手が届く経済圏にしたい。その経済圏をさらに遠くへ拡大していくことが目標です。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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