目視検査を自動化

 RistがAIを使って開発を手がけた代表的な事例に、鏡の検査がある。クルマのバックミラーで国内シェアがナンバーワンの村上開明堂からの相談だった。鏡の表面の汚れや埃は、製造工程で取り除けるが、表面のキズは取り除けない。このキズを発見するために従来、画像検査会社のシステムを採用していたが精度は60%程度で、最終的には人間が目視で判断せざるを得なかった。


 「そこで、撮影した画像の黒い点がキズかどうかを判別するためにディープラーニングを採用しました。その結果、人が経験を積むように、学習データが増えるほど判定精度が上がり、キズの認識精度は99%まで高まりました。全ラインに導入し検査を自動化することで、検品作業員を7割削減できる目算です」


 村上開明堂では、こうして検品業務の負担を減らし、その分の人員には上流工程に回ってもらうことを考えられている。


 「製造の上流工程で振動を無くすなど、キズが出ない環境・条件を考えることで全体最適化を図ることが重要です。本来あるべき姿を見直すきっけにもなっています」(遠野氏)。


 この事例のほかにも遠野氏は、トンネルを掘削する際にダイナマイトの量が適正だったかどうかを爆発後に画像を見て判断する業務や、印刷物の比較検査、網膜画像分析による病気の発見など、多くの業務にAIを適用してきた。その中で着目したのが、村上開明堂のケースと同様の“目視検査の自動化”だった。


 「人間の目による検査は信頼性が高いと言われてきましたが、見逃すこともあります。検査には熟練が必要で、神経も使います。しかも今は人手不足という状況です。この分野にAIを適用して人間を解放してあげたいと考えています」(遠野氏)


 Ristのホームページには「人類の感覚器官に、自由を取り戻す」と記されている。遠野氏は、「ディープラーニングを用いた柔らかな判断システムで、眼や耳を酷使してきた検査・解析業務から人間を自由にし、もっと創造的な活動に注力してもらいたい」という強い思いを抱いている。


 目視検査へのAIの適用から始まった同社の事業は、機器の故障予知や、音声起こしによる議事録作成の際の話者の識別、電子カルテの分類、プロ野球でのピッチングフォームの解析など、20以上のプロジェクトに広がっている。

現場が必要だった

 Ristは2019年1月に京セラコミュニケーションシステム(KCCS)の傘下に入った。遠野氏が保有する株式をすべてKCCSが買い取った格好だ。


 「会社としては右肩上がりで成長してきたのですが、その成長が遅いのではないかという危機感を感じていました。日本企業は、試験的にAIを入れてから全社展開するまでが1年単位で非常に遅い傾向があります。中国企業の場合は、試験導入のあと3カ月後、半年後には実機に展開するというスピード感で動いています。自分たちはもっと早くAIを適用できると思っても、お客様の事情でなかなか先に進まないというもどかしさがありました。それならば、ものづくりの現場を持っている会社と一体になって、スピード感を持って開発したいと考えたのです」


 まずは京セラグループの工場にAIを適用することを進めており、培ったノウハウを基にして他社に適用していく方針だ。


 「KCCSには自分から話を持っていきました。母校である京都大学に稲盛和夫氏が寄付したものがあり、京セラと組むと面白そうだなあとも感じていました。他社にも話をしたのですが、KCCSが最も意欲的でした。Ristの開発拠点が京都ということもあって、相性が良かったと思っています」(遠野氏)


 今後について尋ねると、遠野氏は「事例がたくさんできれば他社も導入したいと思うはずです。開発したノウハウを生かして、日本のものづくりに変革を起こしていきたい」と野心満々に語った。


(後編につづく)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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