2017年に培養鶏レバー「君の肝臓を食べたい」

そもそも羽生さんがなぜ培養肉の研究開発を始めたのかをお聞きしたいのですが、オクスフォード大学でのご専門は?


羽生 有機とか生物寄りの化学です。実際にやっていたのはナノテクと言われる領域で微細加工です。そもそもSFっぽいから理系に進んだっていうのがあります。


すべての発端はSFなんですね(笑)。オクスフォード大のあとは?


羽生 オクスフォード大で博士課程が終わる時に、21世紀中頃には緑の丘に太陽電池がいっぱい並んでいるような環境エネルギー領域に行きたいなと思って、東北大で電池の材料の研究をしました。卒業後は東芝で電池周りのシステムの研究開発をやってました。


なぜそれが培養肉に?


羽生 そろそろリアルなSFをやる頃かなと思って。宇宙船とか色々考えましたが、今やるなら肉だろうと。


なぜ肉だったのですか?


羽生 2014年頃はなぜかやっている人があまりいなかった。19世紀からアイデアはあって一人の研究者がちょこちょこ研究したり色々なアーティストが「作ったぞ」と見せたり。2005年にオランダが200万ユーロの学術研究費で研究を進めたりして基礎技術はありましたが、産業技術がすっぽり抜けていた。やるならこれだろうなと。


2013年に培養肉ハンバーガーが話題になってからスタートアップが増えたんですね。


羽生 自分が肉を始めた頃は、培養肉ハンバーガーのことは知らなかったんですけどね(笑)。


え、じゃあ2014年にSHOJINMIEAT PROJECTを始めたのは?


羽生 最初から営利団体でやっても人が集まりにくいし、ビジネス系の人がリーチする対象になってしまう。まず仲間を増やそうと。


ミニコミ誌拝見しましたが、DIYで自分でもお肉作れるかも!という気持ちになります。


羽生 それを目指してます。


起業のきっかけは?


羽生 リバネスの「テックプランター」というビジネスプランコンテストで2015年10月に優勝して法人設立しました。


2017年に培養フォアグラ(培養鶏レバー)を実際に作ってますよね? 味はどうでしたか?


羽生 ニコニコ動画(「君の肝臓を食べたい」)に上がってる通りですが、甘みとうまみが強めで、もうちょっと胡椒をふりかけたかったって感じですかね。アミノ酸の味が相当するんですね。


食感は? ステーキの肉の噛み応えみたいなものを再現できますか?


羽生 それを目指しています。タンパク質だけ欲しいのなら点滴でいい。なぜ肉を食べるかと言えば味や食感を楽しみたいからですよね。植物で作ったお肉そっくりさんは世の中にありますが、今一つ広がらないのは美味しさの点で本物の肉に劣るから。それができるのは細胞培養技術です。最初はペースト状の物が作りやすいですが、肉そのもの、ステーキそのものを作りたい。


最初にうかがった、肉を構成するどの細胞を育てるかで噛み応えが変わってくるのですか?


羽生 そうですね。あとはどんな方法で培養するか。たとえば細胞の足場を作ると肉の筋を作って食感を再現できますし、調理法でも変わってきます。秘伝のたれを開発するように色々な人が研究する分野ですね。

細胞培養肉は宇宙を目指す

ところで2019年3月にJAXAや30以上の企業が参加して、月面や地上での食料生産を目指すスペースフードXに参加されましたね。


羽生 細胞培養肉を始めたころから将来的には宇宙、火星で作るという頭でいました。スペースフードXはその通過点です。


火星で培養肉を作って食べるのが夢(画像提供:Shojinmeat Project)

なるほど。まずは月面ディナーで。ユーグレナさんと組んで究極の資源循環を実現すると発表されてましたね。


羽生 下水・汚泥のバイオマス資源から微細藻類を育て、月面の鉱物から窒素や炭素を加えて培養液を作り、肉を培養する。肉を食べたら下水・汚泥へ。地球上よりエネルギー変換効率がいい、閉じた資源循環が実現できます。


月産月消が実現できると。地球から牛や鶏を連れて行かなくても月でお肉が食べられる。


羽生 まぁ、牛1頭連れて行こうと思ったら酸素が人間の5人分は必要だし、糞尿処理システムまでいれたら、打上げ重量がどれだけかかるかしれたもんじゃない(笑)


ライバルはいますか?


羽生 今世界で、細胞培養肉を目指すスタートアップは30数社あります。調達金額が大きいのは米国のメンフィス・ミートとジャスト。東アジアではうちしかなかったのですが、シンガポールのショーク・ミーツや香港のアヴァント・ミートなどエビを培養するスタートアップが立ち上がっています。


2013年の約3000万円のハンバーガー以降、世の中に培養肉は出ましたか?


羽生 ジャストさんがジャーナリスト向けにチキンナゲットを出してます。技術的には作ろうと思えば作れますが、あとは価格ですね。一時期のパソコンの性能アップレースみたいに「うちはいくらで作れた」という現象が起きています。


インテグリカルチャーさんの目標は?


羽生 1㎏200円とか300円あたり。スーパーの鶏肉の原価ぐらいだと思います。

「なんじゃ、こりゃ!」が重要

それはありがたい。今後の計画は?


羽生 2021年に培養フォアグラを一部のレストランで出し始めたいです。2023年に缶詰か真空パックで加工肉を作り、2025年に一般販売できれば。ステーキ肉も2025年には一部レストランで出し始めることを目標にしています。


羽生さんの究極の目標は?


羽生 火星です。これも通過点ですけどね。木星の衛星ガニメデとか冥王星が控えているから。火星で培養肉を作って食べたいし、火星移住ってことはソフトもハードも全部作ることになるから、色々なものを見てみたい。ネタに走れるものがいっぱいあると思うんですよね。「なんじゃ、こりゃ!」みたいな。


実は火星も通過点。めざすは宇宙農業(画像提供:Shojinmeat Project)

「なんじゃ、こりゃ!」ですか。


羽生 技術って「なんじゃ、こりゃ!」がけっこう重要だと思っていて。「なんじゃ、こりゃ!」が出てきたときに初めて物になって来た感じがするんですよね。


羽生さんにとって「なんじゃ、こりゃ!」は?


羽生 例えばスーパーで売られている肉にQRコードがついていてスマホでかざすとYouTubeライブにつながって、その細胞提供元であるアイドル牛のべこちゃんのウェブ中継が見えるとか。場合によっては競走馬を見にいって、走っている馬の肉を食べながら競馬を見る「馬券付き馬刺し」ができたら面白いじゃないですか。


牛も馬も生きてるってことですよね・・・。将来的には自分の臓器を培養することもできたりするんでしょうか?


羽生 DIY臓器ですね。お酒を飲み過ぎた人が自分の肝臓を新しく作って、臓器持ち込み外来にいってお医者さん以「すみません、これ入れて下さい」とか。


その実現のために当面の目標は。


羽生 もちろん技術として作るのが一番重要なので、研究開発です。




本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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