前編からのつづき)


 渋谷を拠点にする異色のエンジニア集団・クーガーは、PC、スマートフォン、音声アシスタントの「次のインタフェース」として、バーチャルヒューマンエージェント(VHA)の開発を手掛けている。その最大の特徴は、顔と身体をもち、まるで人間のように感情表現を行うことだ。最終的には、映画『ブレードランナー 2049』に登場する「ジョイ」のようなAIアシスタントをつくることを目指すという。


 1人1台のバーチャルAIアシスタントを持つようになるという構想は、一見すると遠い未来の、SFのような話に聞こえるかもしれない。しかし、クーガーの共同創業者 兼 CEOの石井敦氏は、VHAの身近な応用方法から社会に普及させる道筋までをしっかりと思い描いている。


 ジョイの登場は、2049年まで待たなくていいのかもしれない。

バーチャルヒューマンのロードマップ

 VHAを社会へ普及させていくために、石井氏は3つの用途から実装を始めようとしている。


 1つめは「エンターテインメント」。『Pokemon GO』のようなARゲームやライブパフォーマンスがこれに当たる。クーガーは2018年、KDDIとともにスマートグラスで初音ミクなどのバーチャルキャラクターとコミュニケーションできる技術を開発したが、こうした「AR技術×VHA」を使ったコンテンツは今後ますます増えていくことだろう。


 2つめは「人型のデジタルサイネージ」。同社はすでにシンガポールのコワーキングスペースにVHAによる受付係を展開しているほか、電通国際情報サービスおよび京王電鉄と協力して、ショッピングモールでデジタルサイネージに投影された等身大のVHAを稼働させた実績を持つ。会社やイベントでのコミュニケーション係として、VHAが活躍する日も近いかもしれない。


 そして3つめが「空間」である。VHAが使用される空間としてクーガーが特に着目しているのが、クルマの中のスペースだ。人間が運転することがなくなった未来において、行き先を提案・案内してくれるコンシェルジュとして、あるいは病院に行くまでの間に問診を済ませてくれるような診療アシスタントとして、VHAが車内のコミュニケーション相手を担うようになると石井氏は考えている。

クーガーの開発するVHA「Rachel」の車内におけるデモ映像。ユーザーから尋ねなくとも、Rachel側から行き先を提案してくれる。

 これらの用途に使われるVHA「Rachel」を開発すると同時にクーガーが取り組んでいるのが、VHAのマーケットプレイス、石井氏の言葉を借りれば「バーチャルヒューマンのApp Store」をつくることである。


 それが実現すれば、クーガーによって提供されるVHAのSDK(ソフトウェア開発キット)をデザイナーやエンジニア、AIデベロッパーが使うことで、世界中の誰もがオリジナルのVHAを制作・販売できるような場が生まれることになる。現在誰もがスマートフォンアプリの開発に携わることができるように、VHA開発がオープンになることで、年齢や性別、性格も多種多様なVHAがつくられることになるだろう。個人や組織はマーケットプレイスからお気に入りのVHAを購入し、それぞれの目的のために使えるようになる。同社は、2019年8月から、このSDKのクローズドベータの提供を開始した。


 VHAのマーケットプレイスは2021年までに開始する予定だと石井氏は言う。現在1人1台スマートフォンを持っているのが当たり前になったように、1人1台のVHAを持つのが当たり前になる時代は、意外と早くやってくるかもしれない。

本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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