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Innovators 公開日: 2018.10.03

ブロックチェーンで“本物”の再エネ電気を供給──みんな電力専務 三宅成也氏

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みんな電力が手掛けるP2P電力取引プラットフォームとは。

 新電力のみんな電力が2018年2月に発表した「ブロックチェーンを活用したP2P電力取引プラットフォームの開発」は、再生可能エネルギーの普及拡大社会を見据えた新たな電力サービスとして注目を浴びた。一方で、ビットコインなど暗号通貨のベースとなっているブロックチェーンを、金融分野以外で活用する事例としても話題になった。はたして、どのようにブロックチェーンを使ってエネルギー供給を実現しようとしているのだろうか? その先に見据えた新市場とはどういったものなのか?

 2016年の電力小売りの自由化により、地域によって決められていた電力会社ではなく、新たに参入した電力会社と住宅や事業所が電力供給を契約できるようになった。また、自由化以前は電源構成を選ぶこともできなかったので、どんなに環境意識が高く、自分は地球にやさしい電気しか使いたくないと思っていても、地域で一括して電力供給を受けるしか選択肢はなかったのだ。それが、太陽光や風力など再生可能エネルギーによる電力を供給する会社も選択できるようになった。

 こうした背景から、電力供給の仕組みは、従来の大規模集約型モデルから、企業や個人、自治体などが電力の生産者となり、それらの電力を共有して利用する分散型モデルにシフトしている。この動向は、再エネ発電コストの低下や、電力システムのデジタル化などにより、今後もさらに加速していくと予想される。

再エネ購入への関心が高まる企業需要家

 「普段なにも気にせずに使っている電気にも、生産者がいることを理解してもらいたい。それによって、電気の生産者の価値を、電力を買う人にわかってもらえたらおもしろいと思う」。みんな電力専務取締役の三宅成也氏は、同社設立の趣旨をこう語る。

 「コンセントの向こうが火力発電所だけでなく、太陽光発電や風力発電などもっといろいろな種類の発電設備にもつながっていると実感できれば、電気を使うことが楽しくなるのではないか。私たちは、電気の生産者を選んで応援できる“顔の見える電力”のサービスを目指している」(三宅氏)
 例えば、東日本大震災で津波と原発事故両方の被害を受けた福島県南相馬市では、津波で田畑を流された農家が、太陽光発電事業で農業の復興を目指すプロジェクトを進めている。需要家がみんな電力と契約してこのプロジェクトを応援すると、毎月の電気料金の一部が発電所に贈られる。代わりに需要家は、お米券やカフェのチケットなどのプレゼントを受け取ることができる。

 「通常、需要家が新電力を選択する理由は料金の安さ。とはいえ、新規に参入した電力会社は、どこも薄利で苦労している。料金で競争しても疲弊するのは目に見えており、私たちは料金にこだわる層はターゲットにしていない。少し料金が高くても、発電の過程に関心がある層をターゲットにしている」(同)

 最近では、みんな電力と契約している需要家の中でも、もともと環境に対する意識が高い企業が、事業で消費する電力を100%再エネにしたいと考えるようになってきた。その背景にあるのが、事業運営を100%再エネで調達することを目標に掲げる企業が加盟する「RE100(Renewable Energy 100%)」というイニシアチブの動きだ。

 RE100は、2014年に英国で設立されて以来、加盟企業が増え続け、今日では、米アップルやマイクソフト、スイスのネスレ、スウェーデンのイケアといった欧米企業にとどまらず、中国やインドの企業にも広がりを見せている。日本でも既に、リコーやソニー、富士通などの製造業をはじめ、丸井グループやワタミなどさまざまな業種の企業が加盟している。

 「欧米では、RE100に対応した再エネ電力を供給する制度が整っている。ところが、日本ではFIT(固定価格買取)制度があるために、現状では企業が簡単に再エネ電力を購入することが難しい状況になっている」(三宅氏)

ブロックチェーンで作り手と買い手の関係が明確に

 日本では太陽光や風力などの再エネ発電を始めた事業者の多くが、電気を電力会社に買い取ってもらうFITの制度を活用している。一方で、FITの原資は再エネ賦課金という形で国民全体が負担しているため、電力に環境価値を付けて販売することが禁止されている。したがって、日本でRE100を目指すには、再エネ電源を自前で持つか直接供給者と契約する以外に、FITの制度を使わずに再エネを販売するグリーン電力を利用するしか方法がない。

 「私たちは、グリーン電力によって再エネを購入していることを証明できるトラッキングの仕組みを、プラットフォームとして提供する。そのプラットフォームにおける相対(P2P)の認証に、ブロックチェーンを活用した」(同)
 そもそも、送電線にはいろいろな発電所で発電された電気が混ざって流れているので、特定の発電所で作られた電力だけを分別することはできない。では、みんな電力はどのようにして、プラットフォーム上で電力をトラッキングしているのか。

 「まず、再エネによって作られた電力だけを集め、バランシンググループというプールにためる。そのプールにためられた電力を、RE100を目指す企業や自治体、個人などに販売する。重要なのは、発電所と需要家に対して、バランシンググループ内の電力を発電量や消費量に応じてマッチングさせること。こうすることで、どの発電所で作られた電力が、どの需要家で使われたかがわかる」

 とはいえ、物理的にどこをどう電気が流れたかを調べたり、制御したりする手段はない。そこで、30分単位で「どこの発電所でいつ、どのくらい発電したか」と「どの需要家がいつ、どのくらい電力を使用したか」を、トークンを使って割り振る。

 例えば、1kWhの電力を1トークンとして換算する。そして、「青森のA電力」が「Bコーヒー」とあらかじめ電力の売買契約を結んでいたとする(図1)。この場合、30分間で「A電力」が150kWhの電力を発電し、「Bコーヒー」が30kWhの電力を消費していたとすると、これらをマッチングさせて「A電力」によって生成された150トークンのうち30トークン分を「Bコーヒー」に移動させる。余った120トークンについては、需要と供給のバランスをとりながら他の需要家に振り分ける。最終的に売れ残った電力は、JEPX(日本卸電力取引所)に買い取ってもらう。
(図1)みんな電力が提供する予定の発電所と需要家を結びつけるプラットフォーム(出所:みんな電力)
 「電力の需給におけるトークンのやり取りの履歴を、改ざんが困難なブロックチェーンで管理する。これによって、仮想的にではあるが、需要家が使用する電力が再エネを利用したどの発電所で作られたかを確認できる」(同)

電源由来証明の発行で双方にメリット

 RE100を目指す企業は、再エネを利用していることを非化石証書によって証明する必要がある。ブロックチェーンによる管理ならば、第三者証明がなくても内容が改ざんされていないことが証明されるので、プラットフォーム上での電力の購入実績を、電源の由来証明(どの電源の電力を購入したのかの証明)として発行できる(図2)。 
(図2)Webで確認できる電源由来証明のイメージ(出所:みんな電力)
 「このプラットフォームには、 セールスフォースのクラウドプラットフォームを活用してみんな電力が開発した、“ENECTION(エネクション)”というシステムを採用している。電源由来の証明のために、スマートメーター以外に専用のハードウエアなどを必要としないので、シンプルかつ低コストで運用できる」(三宅氏)
 需要家は電源由来の証明を見れば、例えば「今月は予約していた発電所から○%の電力を購入できた。それ以外の再エネ由来の発電所からも、これだけの電力を購入できた」などが明確になる。一方、特定の需要家に売れた電力にはプレミアが乗せられるので、発電所にとっても単にJEPXに電力を買い取ってもらうよりも、高く電力が売れるというメリットがある。

 「これまで、FITの制度を利用していた再エネの発電所にとっては、買い取り先は大手電力会社で、価格は国が管理していることから、買い手を作るという発想がなかった。でも、みんな電力のプラットフォームを利用すれば、電力の作り手と買い手の関係が証明され、双方にとってさまざまな付加価値が生まれる。例えば、買い手が地元で作られた電力を購入することで地域とのつながりを深めたり、作り手が特定の企業や施設に電力を供給していることを証明できたりすれば、ブランディングできるようになる」

 実際に、9月からこのプラットフォームを使って丸井グループの一部店舗向けに、青森県の発電所で発電した電力を供給している。

2019年のFIT期限切れで新たなマーケットが

 2019年には、2009年に開始した住宅向けのFIT制度が、初めて10年の満了期を迎える。以降、年を追うごとに満了を迎える住宅用太陽光発電の電力は、売電できる権利と売電価格が維持されるという保証を失う。

 一方で、FITの制度が切れた電力は環境価値が付加できるので、グリーン電力となる。これによって、再エネによる電力の供給者が年々増加し、そこに新たなイノベーションが生まれて大きなマーケットが創造されると三宅氏は見ている。

 「今後は、ブロックチェーンによるバランシンググループのプラットフォームを、個人間で分散電力の需要と供給を支える仕組みにも、有効活用できると考えている。FIT期限切れの再エネ電源所有者が、自ら発電した電力の価格を自由に決めて販売できるようにする。そうすれば、UberやAirBnBのように、個人が持つ資産と市場の需要を結びつけた“電力のシェアリングエコノミー”のような新サービスが生まれてくるかもしれない」(三宅氏)

 電力のシェアリングエコノミー(図3)では、再エネ電源による電力を購入した事業者が蓄電池にためた電力をトークンとして売買し、EV(電気自動車)ユーザーが必要な電力を低コストで購入するなどのビジネスも想定される。
(図3)分散電力によるシェアリングエコノミーのイノベーション(出所:みんな電力)
 「電力をトークンに置き換えたビジネスモデルは、電力取引にとてもよくなじむと考えている。みんな電力は将来構想として、既存の電力システムにない新しい価値や市場を作り出すことを考えている」(三宅氏)


元田 光一
(撮影:湯浅 亨)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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