PAIとして会話させるには、その人の声も再現する必要がありますね。


 それについては、音声合成の研究が進んでいます。ただ、人間は同じ言葉を口にする際、その時の感情によって表現の仕方や発声が違います。そのため、単純にその人の声に似せるだけではない、表現の技術も研究しています。ある実験で、人間と対話エンジンとの会話と、人間同士の会話を聞いてもらいました。その後、どっちが対話エンジンによる会話でどっちが人間による会話かを答えてもらったのですが、対話エンジンでの会話を人間での会話だと思った人が40%もいました。


 こういったシステムは、コールセンターを持つ金融機関などが特に興味を示しています。コールセンターではすでにAIによるチャットボットが活用されていますが、チャットボットは問いに対する答えが決められているだけなので、決められたパターン以外の会話では人間のオペレーターが対応することになります。


 私たちは、コールセンターでのさまざまな質問にも対応できる、音声合成と対話エンジンによって会話をするチャットボットの研究も行っています。

亡くなった人の再現もPAIが可能に

PAIの活用ではいろいろな可能性が膨らみそうですね。


 声だけでなく顔のデジタル画像でも、その人の喜びや悲しみ、怒りといった表情を表現する技術の研究を進めています。これによって、亡くなった人の遺影も作れるようになります。実は、過去の人を再現することも、当初から目的としていた課題の一つでした。例えばジョン・レノンやピカソなど、もうこの世にいない偉人や著名人をデジタルで再生すれば、新作を作ってもらうことができるかもしれません。


 海外のSF映画では、過去の自分と会話しているシーンがあったりしますが、そういったこともできるようになります。実際に、過去の人を再生して欲しいという相談も受けました。結婚を控えた娘さんの母親から、既に亡くなっている父親からのお祝いメッセージを、声で聞かせたいということでした。その父親は地方のラジオのパーソナリティをやっていたので、声のデータについてはいろいろと残っていたのですが、その当時はまだそこまでの技術がなく断念しました。


 今なら、YouTubeの映像などを使ってでも、音声合成による本人の声を作れます。


PAIには、どういった情報を与える必要があるのでしょうか。


 PAIはその人の行動や意思決定などを学習していきます。とはいえ、ただ過去の学習に基づいて判断するだけならば、同じようなシチュエーションの時は同じ判断をすることになるでしょう。そこは、人間とはちょっと違います。人間の場合は、同じシチュエーションでもその時の気分や感情で、異なる判断をすることがあります。本来、人間は過去からの経験に基づいて決断するものの、直近で起きた出来事に大きく影響されるわけです。


 例えば、今日の朝は夫婦喧嘩をして家を出てきたとか、朝から雨でジメジメしていてなんだか気持ちが落ち込んでいるなどといった場合は、いつもとは違う判断をするかもしれません。PAIがそういう気分・感情などの要因に紛らわされれずに決断した方がいいのか、そういったものも考慮して決断した方がいいのかは、チューニング次第になると思います。

気になるプライバシー保護

 気分や感情、そのときどきのシチュエーションに合わせて行動を変えるコピーロボット。それでも概ね自分がやりそうな行動をとり、場面によっては自分に代わって適切な判断を下して、作業を進めてくれる。極めて気の利いた秘書といってもいいかもしれない。そんなロボットが実用化されたら、確かに便利そうだ。


 これは実現するには、自身の日常的な行動の履歴を逐一PAIに学習させ、代理の行動の“本人らしさ”を高めていく必要がある。とはいえ、それほどのデータ収集は容易ではない。プライバシー保護も気になるところだ。


 次回は、こうしたPAI構築の課題と、オルツが考えるビジネスモデルについて聞く。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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