業務に合わせてデジタルツールを選ぶのではなく、デジタルツールに業務を合わせる

 「目標とするワークスタイルを実現するために、さまざまなデジタルツールを導入しました。導入した各ツールの機能や使い方に合わせて業務を見直してみると、必要がない作業が洗い出されることが分かりました。業務にツールを合わせるのではなく、ツールの機能に合わせて業務を整理する。そうすることで、さまざまな業務が標準化され、無駄な作業が減り、最終的に生産性が上がったことは大きな発見でした」(石原氏)。


 改革を成功させるために乗り越えるべき課題は、デジタルツールを活用することや他社の事例を参考にすることで解決していった。フリーアドレスを実現するために、多くの他社オフィスを見学し、実際に運用している人たちと話すことで、在るべきオフィスの形を模索した。


 企画書、提案書をはじめとする部内の膨大な紙の資料は、徹底的にデジタル化を推し進めた。「Word」や「Excel」などで加工・編集できる形にした上で、新たに導入したオンラインストレージサービス「Box」で管理することで、いつでもどこでも素早く必要な資料にアクセスすることが可能になった。


 快適なリモートワーク実現のためには、自宅や外出先におけるスムーズな情報共有やコミュニケーションも欠かせない。名刺管理や人脈の共有には、クラウド名刺管理サービス「Sansan」を活用。さらに、「Microsoft Teams」と「Microsoft OneNote」を導入することで、リモートワーク時であっても円滑なコミュニケーションの実現を目指した。


クラウド名刺管理サービスSansanを使用しているPC

 新オフィスへ移転する4カ月前から、用賀の旧オフィスでフリーアドレスの新しいオフィスレイアウトやワークスタイルのトライアルを行った。


 「トライアルを通してさまざまな課題が見つかりました。フリーアドレスを導入した主な目的は、自分のチームだけでなく他のチームや他部署、他社からオフィスを訪問した人とのコミュニケーションを促進し、新たな発想を生み出すことでした。しかし、単にフリーアドレス化するだけでは、オフィスが『カフェ化』してしまい、周囲の人とコミュケーションを取らなくなってしまう。いかにオフィスとして、社員のコミュニケーションを促すことができるか? そして、いかにしてリモートワークで隣にいない人の様子や状況を把握しながら、いい意味で『お節介を焼けるか』という課題もありました」(石原氏)。


 こうしてトライアルで得られた知見を基に、オフィスレイアウト、ワークスタイルに修正を加えながら、仕組みやガイドラインを徹底的に練り上げていった。


デジタルツールの活用でリモートワークが円滑に

株式会社東急コミュニティー新オフィス

 2019年8月、営業開発事業部は渋谷ソラスタの新オフィスに移転した。移転前は一人につき段ボール10箱以上あった資料は、プロジェクトによって1箱にまで減っていたため、引っ越しは極めて短時間でスムーズに完了した。


 新オフィスはプレゼンテーションも可能なカフェスペース、作業スペース、集中して作業を行うためのブース、一対一で話し合うためのブース、ミーティングを行うためのエリアなどに分かれている。フリーアドレスのため、決まった席はなく、私物は個人用のロッカーに収納する。また、それぞれの社員がどこにいるかがすぐに分かるようにビーコンシステムも導入されている。さらに、日本全国にサテライトオフィスを用意したほか、社員がカーシェアを利用できるようにするなど、オフィスに来なくても仕事ができる環境を徹底的に整えた。


 「デジタルツールを導入し、新しいオフィスレイアウトを採用するだけではなく、それらを活用するための仕組みやガイドラインをしっかりと用意しました。そこまで取り組んだことで、自宅や外出先でも社員は全く問題なく仕事ができています。例えば、これまでは子どもの体調不良によって終日欠勤せざるを得なかった社員が自宅で少しでも業務を進めることが可能になりました。欠勤することなく社員は成果を上げられるようになるとともに、組織全体の生産性が向上し、残業時間が減りました」(石原氏)。


進化を続ける「未完成なデジタルルーム」が新しい価値を生み出す

株式会社東急コミュニティー新オフィス

 2020年4月、石原氏は別部門の担当となったが、自らが手掛けた新しいオフィスを「未完成のデジタルルーム」と呼び、強い期待を寄せている。


 「テクノロジーが日々進化を続ける中で、ワークスタイルもオフィスも完成することはありません。お客様に新しい価値を提供していくために、常に進化を続けていく。そして社員一人ひとりの成長を促し、自ら考え、行動するような自律型組織へと変革していく。この未完成なデジタルルームによって生み出される成果を会社全体に広げていきたいと考えています」と石原氏は語る。


 リモートワークなどデジタルツールを活用した柔軟な働き方の実現と生産性の向上、さらには仕事への意識の進化や自律型組織への変革が、今こそ強く求められている。