(前編からの続き)

社内では築き得ない人脈を構築

 国内外から訪れる起業家・経営者、大学・行政関係者などとの交流が盛んなのも、toberuの特色だ。フェニクシー代表取締役・橋寺由紀子氏の出身校であり、取締役・久能祐子氏が特命教授を務める京都大学経営管理大学院との連携、またフェニクシーの創業メンバーやアドバイザリーボードのネットワークもあり、数多くの人がtoberuにやってくる。例えば代替タンパク質開発の本場である米国西海岸のオレゴン州から知事が視察に訪れ、まさにその研究開発を進めるフェローが対話のチャンスをつかんだこともあった。


プログラムのキックオフで発表するダイキン工業・山口央基氏 ©Yoshitaka Orita
プログラムのキックオフで発表するダイキン工業・山口央基氏 ©Yoshitaka Orita

 2020年3月まで滞在した第2期フェロー、山口央基氏(ダイキン工業)もプログラムを通じて豊かなネットワークをつかんだ一人。応募の狙いは、自身が研究開発中の超撥水技術の新たな価値発見と新ビジネスの構築だった。水は人類に多大な恩恵をもたらすが、一方で腐食をはじめさまざまな不利益をもたらすこともある。その不利益を取り除くと期待されている超撥水技術は、これまで1万超の論文が発表されながら、大規模な製品化には至っていない。その最たる要因の一つが耐久性の問題だったが、ダイキン工業では高耐久の超撥水フッ素樹脂塗膜の開発に成功。この新技術に、基幹事業の空調・化学などにとどまらない潜在的な市場があると考えた山口氏は、新たな用途探索を加速度的に進めたいとプログラムに応募したのだ。


 滞在期間中はメンターやフェロー、またフェニクシーの事務局を通じてネットワークを広げ、約30の企業・行政機関、京都大学をはじめ約10の大学関係者を訪問、展示会・交流会にも積極的に足を運び、プログラム後半の約2カ月でおよそ200名と名刺交換。「この間に、社内の通常業務では絶対につながらない人と会えたことが何より大きい。より高い決裁権を持つ人とダイレクトに会えたことで、業界全体の動向やその企業の現状など密度の高い話ができ、面談後すぐ全社にリサーチをかけてもらえたこともありました」(山口氏)。


 山口氏の活動が製品化への確度を高めたことで、ダイキン工業は新規事業化へ歩を進めることを決定。toberuでのレジデンス期間が終了した現在も、得られたネットワークを生かして、新たな用途探索とビジネス構築に向けて活動を継続中だ。


ダイキン工業が開発中の超撥水塗膜。新たに開発されたフッ素樹脂液で基材をコーティングすると、水滴はつぶれず球体を保ったままコロコロと転がり、見事に水をはじく(提供:ダイキン工業)

超撥水塗膜は多彩な用途が期待される
超撥水塗膜は多彩な用途が期待される(提供:ダイキン工業)