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Innovators 公開日: 2018.05.31

【CDOが描く社会】デジタル活用で顧客の嗜好先読み LIXILの金沢CDO

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LIXIL(リクシル)は、2011年4月に住生活関連企業5社が統合してできた企業で、世界中の人々のより豊かで快適な住まいと暮らしの実現を目指している。同社にとっての課題は、新築物件が減りリフォームなどBtoC事業の比重が高まっていく中で、いかに消費者の心をとらえるか。それには消費者のライフスタイルや好み、生活環境の変化を敏感にとらえ、柔軟に対応していく必要がある。そこで同社は、16年8月に最高デジタル責任者(CDO)を置き、消費者動向の分析に乗り出した。工具通販のMonotaRO(モノタロウ)出身のCDO、金沢祐悟氏にその役割とLIXILのデジタル化戦略について聞いた。

── LIXILにおけるCDOの役割は何ですか。

金沢 LIXILが消費者に寄り添い、ニーズを的確にとらえるために、社内のデジタル化をけん引するのがCDOの役割です。高度経済成長期は商品を造れば売れる、そんな時代でした。建材・設備メーカーはハウスメーカーや設計事務所が選んでくれる商品を造っていればよかった。

 しかし、これからはそうはいきません。住宅の新築案件は減る一方で、消費者は既存住宅をリノベーションしながら活用するようになってきています。さらに、シェアハウスやシェアリングサービスなど、住まいにも新しい文化が生まれています。最終消費者が求めるものが、以前とは違ってきているわけです。

 そんな中で、消費者に快適な住まい、暮らしを提供するにはどうしたらいいか。それには施主となる消費者との接点を強化し、消費者が何を考えて、何を求めているかを知る必要があります。最近はスマートフォンやSNS(交流サイト)が普及し、その履歴から消費者の動向をつかめるようになりました。ですから、まずはSNSなどを通じて消費者のニーズを把握することから始めることにしました。

 今はまだ、デジタル情報をベースに考えるというところまで来ていません。これを、徐々に変えていきます。これらが当たり前に社内でできてくれば、最終的にはCDOの役割が不要になると思います。これが私のミッションです。

──まずはデジタル情報をどのように活用しようと考えていますか。

金沢 LIXILのホームページにアクセスしてきた人の中で、本気で購入したいと考えている人を特定し、的確に情報を提供していきます。キッチンなど住宅に関連した商品は、実物を見てから買うのが普通ですから、出向いて実物を見てお買い上げいただけるよう、ホームページからショールームに誘導します。

 そこでショールームでもデジタル技術の活用を始めました。具体的にはショールームを訪ねた人が商品をイメージしやすいように、商品の3D画像化も進めています。ショールームに実物を置いていないものでも、3D画像を使って実物に近い形で商品を確認したり、いろいろなアングルから商品を眺めたり、さらには画面上で材質や寸法を変更したりすることもできます。こうすれば、従来とは顧客の納得感が違ってきます。

 また従来は、コーディネーターがヒアリングして仕様をまとめ、数日後に見積もりを送付していました。しかしそうなると、値段を見て迷った場合など、もう一度ショールームに足を運んでくれない顧客が出てくるかもしれません。これは機会損失につながります。

 しかしデジタル技術を使えば、その場で見積もりを出せますし、いくつかの候補を印刷してパンフレットにまとめることもできます。それを渡せば、家に帰って楽しく家族会議ができるかもしれません。

 3D画像は、まだショールームで見せているだけですが、今後は拡張現実(AR)などを導入して、実際に部屋に置いたらどうなるか、イメージを見られるよう検討していきます。将来的には、このプラットフォームを広げて、ショールームだけでなく、私たちのお客様の事務所や住宅展示場などでLIXIL製品を3D画像やARで見られるようにしたい。住宅に関わるあらゆる人がこのプラットフォームを活用できるようにしたら、お客様にはもっと具体的なイメージを持って検討していただけます。
── ショールームに3D画像を導入する上で課題はありましたか。

金沢 今までの慣れた業務プロセスを変えることになるので、現場のメンバーにきちんと目的やメリットなど説明して回りました。最初は戸惑いもありましたが、実際に使ってみて、来店した人が喜んでくれることが分かると、積極的に使うようになってくれました。そして、横のつながりで別のメンバーに良さを伝えるようになると、あとは一気に導入が進みました。今後はすべての来店者に提供できるようにしていきます。

 私は今、CDOでもあり、マーケティング本部長でもあります。デジタルだけでなくマーケティングまでカバーすることで、デジタル化のメリットを証明していきます。

── 他にもデジタル化で考えていることはありますか。

金沢 社内のあらゆるところにデジタルを浸透させようと思っています。例えば、宣伝にもデジタルを導入する余地はあります。サンプリングした一般家庭にご協力いただいて、テレビにカメラを設置し、テレビのコマーシャルを誰がいつ見ているかを秒単位で測定して分析しています。そうすると、どのコマーシャルをどの属性の人が見ているかが分かります。あとはターゲット層に合わせてコマーシャルに工夫を加えていきます。ただコマーシャルを流すだけでなく、デジタルで集めた情報を分析してエンドユーザーにより近づくことを考えています。

── 商品開発には生かさないのですか。

金沢 いずれは、実際に使っているお客様の声を集めて次の商品開発に生かしたいと思っています。今のところはショールームでお客様の声を集めています。

 例えば、3D画像で多く触るパラメーターと触らないパラメーターがあります。多く触るものはそれだけ関心があるということです。レパートリーを増やせば、ニーズを掘り起こせそうです。一方、あまり触れないパラメーターはレパートリーを増やさなくてもいいかもしれません。こうしたことを開発に生かせるはずです。

 アンケートをとったり、質問したりしても返ってくる答えは必ずしも本当に思っていることではない場合があります。本人も分かっていないこだわりを知り、先回りして提案することでお客様の満足度を上げたいのです。

── 既存顧客に対しても、デジタルを活用して満足度を上げる取り組みをしていますか。

金沢 当社の商品を購入した方には、LIXILオーナーズクラブにご加入いただいて、お客様のニーズにあったタイミングでメンテナンスや新商品を提案しています。

 今後はオーナーズクラブ加入者に提供するサービスを充実させて、加入者数を増やしていこうと考えています。加入者が増えれば、要望や意見、サービスの利用頻度などの情報を基にして、さらにサービスをブラッシュアップできると思います。

── CDOの役割がいらなくなることを目指しているとのことですが、具体的にはLIXILがどうなるといいのでしょうか。

金沢 現場がデータを持ち、正しい判断をすることで、会社全体がトップダウンではなくボトムアップで動くようになることです。情報は現場にあるので、それをデジタル化して、現場の社員に見えるようにします。現場がデータを見て自ら判断して動けるように、デジタル環境を整備します。

── 将来ビジョンについて教えてください。

金沢 LIXILの商品・サービスをもっと進化させて、より快適で便利な暮らしを提供したいと思っています。例えばこれから超高齢化社会を迎える日本では、住み慣れた家をデジタル技術でサポートできれば、体が弱ってきても住める家になり、みんなが幸せになれるわけです。そのためにもLIXILの商品には利用者に寄り添う機能を増やしていきたい。暮らしを豊かにし、より快適な生活を実現するわけです。

── 御社のデジタル化における課題は何ですか。

金沢 LIXILがデジタル改革に取り組んでいることの認知度をもっと高めていきたい。住宅設備や建材メーカーにはデータサイエンティストの活躍の場があまりないように思われてきたのではないでしょうか。そうした状況を変え、住宅設備や建材の価値を一緒に変えていきたい。

── CDOに求められるものは何ですか。

金沢 経営とデジタル技術の両方が分かることです。経営感覚とデジタル技術に関する知見をバランス良く備えていることが大切です。


菊池 珠夫=日経BP総研 クリーンテックラボ
この記事は日経BP総研 クリーンテック ラボの研究員が執筆し、日本経済新聞電子版テクノロジーコラム「CDOが描く社会」に掲載したものの転載です(本稿の初出:2018年1月19日)。

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