御社のリリースによるとCDOがデジタルトランスフォーメーション活動を主導するとあります。デジタルトランスフォーメーション活動について教えてください。

三井物産CDOの北森信明氏(以降、撮影:新関雅士)

北森 デジタルパワーを活用して、オペレーショナルテクノロジー(運用技術)を改善し、最終的に収益を向上させること。これがデジタルトランスフォーメーションの当社での定義です。


 ここでいうデジタルパワーの活用とは、大量にあるデータを取り込み、送信、整理、分析して、ビジネスに活用することを指します。最近では分析に人工知能(AI)が使われることが多くなりました。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」やAIがマスコミで取り上げられることが多いですが、どれも本質は同じです。大量のデータを活用して、仕事や社会に生かすことです。


 オペレーショナルテクノロジーはビジネスにおける現場オペレーションのノウハウを指します。現場力といってもいいです。当社の16営業本部・3地域本部、各関係会社の事業部門の業務だけでなく、人事や法務、経理などコーポレート部門を含めての「現場知見」です。これまで当社は様々な分野で「現場知見」を磨いてきました。


 このオペレーショナルテクノロジーを、デジタルパワーを活用して改善し、最終的に売り上げ増やコスト削減といった収益向上につなげるわけです。ただ、これだけだと生産性の効率化の域を出ないので、できるならさらにビジネスモデルを変革・創出することが望ましいです。デジタル化でビジネスモデルを大きく変えることができれば、大幅に収益力を高められるケースがあります。


 CDOの役割は、現場にいる社員一人ひとりがこのデジタルトランスフォーメーションの定義に沿って、狙いを実践に落とし込むことを支援するということだと考えています。


デジタルパワーは手段でしかないということでしょうか。

北森 そうです。AIがすべてを解決するかのような意見もありますが、私は怪しいと思っています。米ウーバーテクノロジーズのどこに価値があるかというと、車を運転する人と移動したい人の両方のニーズをマッチングしたことであって、デジタルはそれを可能にするツールでしかありません。


 でも、デジタルの力は侮れません。現在のビジネス環境において競争力は、デジタルパワーとオペレーショナルテクノロジーの掛け算で表せると思っています。もし、圧倒的なデジタルパワーを持った企業が現れれば、現場力の積み上げがなくても、競争力では他を寄せ付けないほどの破壊力を持ちます。


 例えば、もしデジタルの力ですべての電力が太陽光発電だけで供給できるようになったら、将来的には石炭や液化天然ガス(LNG)を燃料にした独立系発電事業者(IPP)はいらなくなります。そのとき、三井物産のこれまで積み上げたものが崩れて弱体化してしまう可能性があります。そうならないように社会の変化の流れを捉えて変革しなくてはならない。そのために、社内のデジタルパワーを最大化して、それに「現場知見」を掛け合わせ、デジタルトランスフォーメーションを進めるCDOが必要になったのです。


御社がカバーしている領域はとても広くて、デジタルトランスフォーメーションを実施しようとすると、数えきれないほどの項目が挙がってしまうと思うのですが。

北森 ご指摘の通り16営業本部・3地域本部とコーポレート部門、すべてでデジタルトランスフォーメーションを起こそうとすると、その項目数は無数にあります。従って、個々の現場が主体性を持って動かなければ、とても実現できるものではありません。デジタルトランスフォーメーションを推進するDT(デジタルトランスフォーメーション)チームを組織していますが、兼務の人員も含めて20人強ですので、とても手が回りません。デジタルトランスフォーメーションは現場のことを分かっている営業本部の社員が主役なのです。


 CDOは、デジタルトランスフォーメーションを社内に浸透させ、現場が常に高い意識でデジタルトランスフォーメーション実現に向けて取り組むよう促すことが仕事です。社内にデジタルトランスフォーメーションに取り組む機運が高まり、現場から声が上がるようになるのが理想です。でも実際はそう簡単にはいきません。現場は日々の業務が忙しいですから。


 そこでDTチームの出番です。主役となる現場の人と一緒になってデジタルトランスフォーメーションを仕掛けていきます。ソリューションを探すこともデジタルトランスフォーメーションの導入も、現場と一緒に実行します。CDOとして気がついたことは、どんどん発言していきます。AIの研究者など社外の専門家とネットワークを構築することもDTチームで行います。ここで大事なことは、DTチームはサポート役の意識ではなく、現場の担当者と同じように当事者として活動しなければうまくいきません。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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