以前「新零售(ニューリテール)ブームの先で起きていること」という記事で、消費者的にはニューリテールを展開する阿里巴巴(アリババ)らと、元々デリバリーを展開していた「美団」(メイトゥアン)がぶつかっていると書いた。コンビニだろうと市場だろうと日用品を運んでくれるメイトゥアンにアリババらが勝つには、商品のクオリティで攻めるしかないのではないかということだ。


 中国のニューリテールといえば、アリババの大型スーパー「盒馬鮮生(FreshHippo)」が最も著名だ。その特徴は配送範囲内に最速30分でデリバリーするほか、そこで買った魚介類をその場で調理してくれるというものだ。アリババに続く第2のEC企業の京東(ジンドン)は、盒馬鮮生とほぼコンセプトが同じ大型スーパー「7FRESH」という店舗をオープンしたが、盒馬鮮生には後れをとっている。メイトゥアンも「小象生鮮」や「掌魚鮮生」といった大型スーパーを展開したオープンし、今後店舗を次々にオープンさせると意気込んでいたものの、その多くが閉店している。


 アリババの盒馬鮮生だけが元気な中で、アリババや同社と資本提携する企業は、盒馬鮮生から派生したショップを次々と出している。そこで、実際にニューリテールの店舗を訪問してみた。


 まず、上海にあるウサギのロゴが特徴の「逸刻(EGO)」という店を紹介しよう。アリババの盒馬鮮生と上海でデパートやスーパーなどを展開する大型国有企業の「百聯集団」が出資する、上海逸刻新零售網絡科技の店舗である。場所でいうと鉄道の上海駅から地下鉄で北にいった上海馬戯城駅から西に位置する。


 中に入れば、様々な新しい取り組みをしようとしているのを見て取れるだろう。売り場面積は小型スーパー程度だが、商品陳列スペースはその半分以下で、日本の都市内のコンビニ程度となっている。医薬品販売コーナーが用意されていたが、商品はなかった。これから売られるのだろう。


 残りのスペースは、イートインやフードコートに充てられている。フードコートでは各種軽食をその場で調理してもらえるほか、フルーツを指定してカットフルーツの盛り合わせを作ってもらい、店内で食べられる。面白い試みとして、店内にクレーンゲームやガチャガチャが複数台置かれていて、25元以上消費すると1回プレーできるコインをもらえるという仕掛けがある。中国の都市のショッピングセンターでは、クレーンゲームやガチャガチャが多数置かれているが、これが一定の消費で無料でプレーできるとなれば、カップルや家族連れがよく消費しにくるのではないだろうか。考え方によっては、中国の各都市で人々が集まるショッピングセンターの面白い要素をぎゅっと詰めた店とも考えられる。


 これらはアプリまたは顔認証で決済できるタッチパネルディスプレイを用いた専用のセルフレジでスキャンし、百聯集団がリリースするアプリ「i百聯」を利用して決済する。i百聯をインストールし、ユーザー登録しなければいけないことから、視察しにやってきた日本人がその端末で決済することは難しい。昼間なので利用客は少なくまばらだったが、逸刻の狙う軽食を食べに来て、ついでに商品も買うような消費者がいるのであれば、そうした人はユーザー登録するのではないだろうか。


 値段は競合他店と比べて少々高めだが、イートインで一息ついて食べられることを考えると、必ずしも高い値段でもない。上海のコンビニを見ると、カップラーメンやポテトチップスやソフトドリンクを買って長く休憩する人が多くいる。デリバリーにも対応し、一見価格競争力はなさそうに思えるが、実店舗を気に入ったリピーターが買っていくかもしれない。


 ニュースでもまだ逸刻の業績について触れるものはないので、どれだけ人気となり成功するかはまだ予想がつかないが、仕掛けについては参考にすべきところが多くある。例えば一定の金額以上利用すれば、ガチャガチャ1回利用可能というキャンペーンは、日本の多くのスーパーですぐに実現できそうだ。新零售という点では、アプリをインストールしてデザインや使い勝手を試すもよし、上海に視察に行く際は見ておいて損はない新零售の店といえよう。


 次に2018年6月から店舗を展開し始めた「盒小馬」という小型スーパーを紹介する。これはアリババの盒馬鮮生と、同社が2017年に買収した小売チェーンの「大潤発」によるもの。名前の通り、盒馬鮮生のスケールを小さくしたもので、店舗によっては盒馬鮮生の特徴の一つであるイートインをなくし、小さなテナントにも入れるようにした800~2000平米程度の小規模スーパーだ。住宅地などに小さなテナントを構えることで、その住宅地への配送を実現する。


 筆者が訪問した上海の中心部に位置する「馬当路」は、洗練された盒馬鮮生を小規模スーパー化したものという印象を受けた。盒馬鮮生や逸刻と同様に、アプリまたは顔認証で決済できるタッチパネルディスプレイを用いたセルフレジが置かれ、そこでキャッシュレスの決済を行う。また最速30分で配送すべく、小さな店内で店員が注文を受けた商品をカゴに入れていた。まさに、小さな盒馬鮮生であった。


 上海馬当路の盒小馬で扱っている商品で注目すべきは米や野菜やパンといったもので、多くの商品が「盒算」「盒馬工房」「盒馬時令」などのロゴ付きの袋に入っていた。盒馬鮮生が、きちんと管理した安全な商品だとお墨付きを与えているということだ。日本のプライベートブランドの場合は安さに注目されがちだが、盒小馬の盒馬鮮生はモノによっては日本よりも高い。代わりに安全・安心を与えているともいえる。場所が上海の中心地に位置する店舗だからか、ネットを利用する若い世代を含め、利用客は多かった。高いお金を払ってでも安全安心な食品を食べたいというニーズがあるようだ。


 ところで、盒小馬は報道を見ていると様々な店舗がある。上海以外にも中国の東側の華東地域で盒小馬が展開されていて、盒小馬の1号店は蘇州の工業地帯に作られたと報じられている。その店は第1号店ということで写真付きの記事があるが、それを見る限り、洗練された盒馬鮮生らしさがない。昔ながらのスーパーをベースに、自動決済端末を置いて、配送にも対応したという感じだ。庶民的なスーパーである大潤発が主導したという。


 そんな蘇州の1号店は閉店となった。大潤発は、展開の見直しを理由としている。上海以外に新たにできた盒小馬についても、一部メディアは「ニューリテールの発信基地を目指しオープンしたが、食品の値段が高すぎてあまり利用されていない」と報じている。高価なプライベートブランドをオンライン/オフラインを問わず迅速配送するという、盒馬鮮生や盒小馬のビジネスモデルが人気なのは、高所得者が多い大都市の中心部だけのようだ。


 アリババはニューリテールをまだまだ模索している。盒馬鮮生ベースではあるが、百聯集団による「逸刻」と、大潤発による「盒小馬」が出てきた。さらに年内には「F2(出店済)」「盒馬菜市」「盒馬 mini」「盒馬小站」というニューリテールのスーパーを出店していくとしている。盒馬鮮生本体においても、ロボットレストランを併設するといった試みが進められている。中国でニューリテールの現場を見るならば、盒馬鮮生の様々な形態のショップを事前に調査して、現地で見るとよいだろう。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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