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Lifestyle 公開日: 2019.05.17

デジタル時代、ラグジュアリーカーの姿はどうなるのか

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新しいテクノロジーの波の中で、「セダン」に大きな変革の時期に差し掛かっている。

メルセデス・ベンツが発表した新世代のサルーン「F015」(出所:Daimler)
 デジタル時代にクルマが姿を変えようとしている。例えば、電気自動車(EV)は大きなスペースを占有するエンジンを持たない。そこでパッケージングが、斬新なものへと変わっていく可能性が高い。

 人類史を垣間見ても、封建制度の崩壊が主人と召使いという社会的関係を廃止し、結果として主婦という存在を生み出した。その人たちがなるべく楽に働けるようにとシステムキッチンが考案されている。

 家庭のリビングルームも同様だ。レストランで外食する習慣が一般的になったことで商業空間のデザインの影響を受けるようになったし、並行して、テレビやオーディオによって娯楽を中心としたレイアウトが採用されるようになった。

 クルマ、それもセダンという車型がいま、同じように新しいテクノロジーの波の中で、大きな変革の時期に差し掛かっているといえるかもしれない。

 セダンとは何か。一応定義しておくと、後席乗員の快適性を重視したクルマといっていいだろう。リムジンはセダンのバリエーションである。1930年代ぐらいから、クルマの基本形はセダンととらえられてきた。

 セダンの良さは、後席にゆったりと人を乗せられるだけでなく、荷物だって乗せられる使い勝手の高さが一つ。もう一つは、メカニズムのためのスペースに比較的余裕があるため、例えばサスペンションの動きも良く、乗り心地が良いことだ。クルマにはバリエーションが多いが、快適な移動のためにはセダンに匹敵するものはない。

 その中で、セダンには逆風が吹いている。世界の多くのマーケットで、若い層を中心にセダン離れが起きている。セダンは古くさいと感じる人たちがSUVを選ぶようになっているのだ。

 実際、魅力的なセダンを多く手がけているアウディのデザインディレクターにインタビューした際、「A8の代表されるセダンには未来があると思っていますか」と尋ねると、「市場が縮小しているので、明るい未来はあまり感じられません」と驚くような答えが返ってきた。

 こうした背景で、各自動車メーカーはセダンの未来形を模索している。このところ、折に触れて発表されている各社のコンセプトモデルを見ていると、バーや公共的な空間を指すイギリス語の”サルーン”の言葉にふさわしいような提案が出ている。

 代表例が、フランスのルノーが2018年秋に発表した「EZ-ULTIMO(イージーウルティモ)」である。メーカーが「四輪のラウンジ」と呼ぶセダンの未来形だ。
ルノー・EZウルティモは自動運転のEVだがどことなくクラシックな雰囲気を持つ(出所:Renault)
ルノー・EZウルティモで移動中はビジネスミーティングも出来る(出所:Renault)
 車内は乗員が向かい合って座れるようになっていて、車両は自動運転の「レベル4」(限定エリア内で運転は完全に自動化)で動く設定である。

 車体は、ルノーのエンブレムであるダイヤモンドをモチーフに使いながらも、レトロスペクティブな雰囲気を感じさせるアルミパネル張りだ。「地底探検」などを著したフランスの作家ジュール・ベルヌが生きていたら自分の予言が当たったと喜びそうな雰囲気である。

 大きなスライドドアを開けると、磨きあげられた木のフロアに大型ソファのようなシートが置かれている。毛足の長いシルクの絨毯などが似合いそうだ。そんな風にすぐにインテリアコーディネートに気がいくところなど、従来のクルマからイメージを離すコンセプトが奏功している。

 ルノーではこのクルマでのパリの観光地めぐりなどを提案している。ルーフはガラス張りなので、夜シャン・ド・マルス公園に行ってエッフェル塔を見上げるといった楽しみも味わえそうだ。

 いわずと知れた英国のスポーツカーブランド、アストンマーティンは、傘下にラゴンダというブランドを収めている。ラゴンダは第2次大戦前の高級サルーンのメーカーで、戦後アストンマーティンに買収され、いまは未来形の乗りものをこのブランドで発売する計画が進められている。

 2018年は 「ビジョンコンセプト」という自動運転化されたEVの大型サルーンのコンセプトを発表し、19年はSUV的イメージを強くした「オールテレインコンセプト」へと発展している。
アストンマーティン・ラゴンダが2018年に発表した自動運転のビジョンコンセプト(出所:Aston Martin Lagonda)
ラゴンダ・ビジョンコンセプトには運転席がない(出所:Aston Martin Lagonda)
アストンマーティン・ラゴンダは2019年には車高が高めのEVサルーン、オールテレインコンセプトを発表(出所:Aston Martin Lagonda)
 「ラグジュリーと聞くと、多くの人は伝統的な空間をイメージしがちですが、私たちが狙っているのは最新の技術を使って、新しい形のラグジュアリーを提供することです」

 アストンマーティン・ラゴンダCEOのドクター・アンディ・パーマーはこう述べている。同社では2021年を目標に、プレミアムクラスに属する自動運転EVの発売を目指しているそうだ。

 ボルボが2018年に発表した「360c」は、以前に発表会の様子をリポートした通り、完全自動運転のEVである。ユニークなのは、国内での移動は飛行機よりも快適に行えるようにするというコンセプトだ。

 飛行場まで出かけていって駐車し、ボーディングの手続きをし、荷物検査、さらに待機、そして出かけていった先でタクシーを探す……といった手間を省略でき、自動運転のクルマの中ではフラットベッドの上で快眠、というのがボルボが提供している価値だという。
ボルボが研究中という自動運転の360c(出所:Volvo Cars)
ボルボ360cは走るラウンジにもなるしオフィスにもなるしフルフラットのベッドにもなる(出所:Volvo Cars)
 この分野でいち早く2015年に自動運転のサルーンを提案していたのがメルセデス・ベンツである。「F015」と名付けられたコンセプトモデルは実走行も可能で、米国を走るジャーナリスト向け試乗会も開かれたほどだ。
メルセデス・ベンツF015は通常このように走るラウンジとして使える(出所:Daimler)
 「これから都市はますます過密化し、個人が占有できるスペースは貴重になり、プライバシーが今以上に大きな関心事になるでしょう。そこで移動できるプライベートな空間というF015の意義は明らかになるです」。メルセデス・ベンツでは上記のように述べている。

 どのモデルにも従来のような審美性はないが、より重要なのは、都市のなかで個が自分のスペースを確保しつつ、移動中の時間も無駄にしない効率性ということだ。

 クルマが普及したきっかけは、西部へと向かう西欧人のためにヘンリー・フォードが「T型」というモデルの大量生産に成功したからといわれている。このときが自動車史における最大の転換点だったわけだが、今また、移動をテーマにクルマが大きく変わろうとしている。デジタル時代と20世紀初頭がどこかで響き合っているのが興味深い。


小川 フミオ


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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