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Lifestyle 公開日: 2018.07.17

「スマホ中毒」は、そんなに悪いことだろうか?

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「中毒」とまで言われるほど子どもが何かに熱中するのは、そんなに悪いことだろうか?

 前回は「シリコンバレーでは、なぜ子どもとテクノロジーを引き離そうとするのか」と題して、子どものスマホ中毒とスマートフォンメーカーの取り組みを紹介した。親と子どもがデジタルテクノロジーから離れて生活することで、メンタルヘルスのケアにつなげているシリコンバレー在住の家族のエピソードも紹介している。

 今回は、それとは逆のアプローチとアイデアを伝えたい。つまり、中毒と言われるほど子どもが何かにのめり込むことはそんなに悪いことだろうか、ということである。「スマートフォン中毒」は、スマホそのものが悪いのではなく、中毒になるほどスマホに熱中している子どもに、その先にある道を示せない親が悪い――そんな考え方はできないだろうか。

注目される「ハウスルール」

 Appleは、「家族」という単位に向けてサービスやブランド、デバイスの継続利用を促してきた。代表例は「Apple Music」を家族最大6人まで利用できるファミリープランだ。購入したアプリを家族で追加課金なしで楽しめるようにしたり、iCloudの追加容量を分け合えるようにしたりといった取り組みも、家族向けを意識したものである。

 そして今回、スマホを使う時間を可視化し、特定アプリや本体の利用を制限できる新機能「スクリーンタイム」を新たに設けた。これにより、親は子どもがどれくらいスマホを使っているのか、親自身のデバイスから閲覧できるようになった。

 スマホ中毒に対する社会的な関心が高まったことで、Appleもこうした機能を用意せざるを得ない状況に追い込まれたわけだが、同社の役員にこの問題の見解を聞くと、家族で議論してルールを決め、それを守り続けるというプロセスを採ってほしい、と説明していた。

 これは、とても誠実な見解だ。というのも、Appleが提供する機能は「利用制限」が主になる。他方で、なぜ制限するのかという最も重要な部分は家族で話し合い、合意を形成しなければいけない。そのプロセスは、この機能に含まれていないのだから。

機会をなくせば可能性もなくなる

 この議論は。「ゲームは1日1時間まで」などという、親子の間で今でも続くやり取りとよく似ている。家庭用ゲーム機が普及し始めた30年も前から続いている話だ。

 当時は「ゲームをやるとバカになる」とまで言われ、ファミコンで遊ぶ時間に制限をかけたいと考えた親には、とても都合の良いキャッチコピーになった。そのほかにも「ゲームをやると目が悪くなる」「姿勢が……」「運動のほうが……」などなど、多少はもっともらしい理由も並んではいたが、要はゲームのやり過ぎに親が恐怖感と嫌悪感を覚えていたのだろう。
 ただ、いつまでもそういう考え方が通用するのだろうか。米国や欧州、アジアでは「eスポーツ」としてマルチプレーヤーのゲーム競技が一大ビジネスに成長している。Amazon.comのような大手テック企業がゲーム配信プラットホームのTwitchを買収したほか、eスポーツ専用のスタジアムも世界各地に登場している。トッププレイヤーにはスポンサーが付き、収入も数億円にまで膨れ上がっているとされる。YouTuberに続き、ゲーマーが世界レベルで「稼げる」職業になっている。

 見方を変えると、ゲームが得意で高い集中力を示していた子どもからゲームを取り上げることで、好きなもの、そして将来の莫大な収入の可能性を潰してしまった親が、日本にたくさんいたかもしれない、ということである。もちろん親を責めるわけにはいかない。当時、ゲームをやってそんなに稼げるなんて、誰も想像していなかったのだから。

 とはいえ、YouTuberやInstagrammerが立派な職業として米国のマーケティング業界で重宝されていることを考えれば、スマートフォンにのめり込むことは一概に悪いと言えないだろう。スマホをフロンティアとして捉えれば、ゲームと同じように得意なことを仕事にして価値を世の中に提供できる存在にだってなることができる。

生活インフラとしてのスマホ

 一方で、世の中ではスマートフォンを前提とする様々なインフラが構築されてきている。

 移動のためにナビゲーションを起動したり、クルマがなければタクシー(ライドシェア)を頼んだり、クォーター(25セント硬貨)を集めずにランドリーで洗濯をしたり、カフェで並ばずにコーヒーを受け取ったり、飛行機に乗ったり、大気汚染を調べたり、周囲の銃撃事件の情報をすぐにキャッチしたり……。もはやスマートフォンに頼らずに生活するのは不可能なレベルにまで達したといえる。

 健康や生存に関わる情報もスマートフォンがなければ即座にキャッチできない。そうした情報への依存とスクリーンタイムの短縮は、当然競合してくる。Appleが積極的にSiriによる音声操作やApple Watchの活用を進めている背景も、生活インフラとしてのスマートフォンの役割の高まりによるiPhoneの成長を進めながら、iPhoneが獲得した機能の活用を、スマホのスクリーン以外に移譲していく方針と見ることができるのだ。

重要なのは、親が知ること

 AppleはFacebookやInstagramがスクリーンタイムの増大の原因であると当てつけるかのように、Instagramの1日の使用時間を制限する画面を開発者の前で披露した(関連記事:Appleが「ユーザーの時間とデータから収益を上げるな」と警告した理由)。Instagramの親会社であるFacebookは、1日の使用時間を制限する機能を密かにテストしているとも言われている。

 Appleからは「iPhoneが悪いのではなく、Facebookが悪いのだ」という声が聞こえてくるようだ。しかし、だからといってFacebookの使用時間を制限しても、問題の解決にはならない。

 これは学校におけるスマートフォンやソーシャルメディアを対象にした議論にも似ている。子どもがトラブルに巻き込まれる背景には、子どもたちがスマートフォンで何をやっているかを教師や親が把握していないという問題がある。子どもたちはスマートフォンやソーシャルメディアの使い方を熟知しているかもしれないし、むしろ親に教える立場かもしれない。しかし、その上で交わされる人とのコミュニケーションや社会とのつながりについては、まだまだ経験が浅い。

 Appleの役員が指摘したように、家族で議論してルールを決めたり、そのルールを理解したりすること、さらにその前段階で親が子どものスマホで何が起きているのかをきちんと知ることが出発点となる。スマホ中毒やスマホでのトラブルは、親子のコミュニケーション不足を解消することで、発生を防いだり、早期の解決をみることができるだろう。

アクティブなスマホ中毒対策

 子どもたちのスマートフォン利用を知ることは、子どもの興味の表れを読み取るきっかけにもなる。写真や音楽などに興味があるなら、スマートフォンはそれらを作り出す道具としてうってつけだ。YouTuberやInstagrammerのように自分で仕事を作れる人材にもなり得るし、企業のマーケティング活動を企画したり、YouTuberやInstagrammerと協働できる企業側の人材としての活躍も考えられる。

 のめり込んでプレーしているゲームがあるなら、アイテムをデザインしたり、ゲーム自体を開発できることを教えれば、単なる消費者からクリエイターやプログラマーになることだってできる。筆者自身、そんな事例を何度も目にしてきた。

 いま子どもがのめり込んでいることを極めた先に、どんな社会とのつながりがあるのか、どんな仕事があるのか──。「熱中の先」をイメージできるかどうかが、親の役割になる。先につながるパスを見出してあげることが大切だ。そのパスの有無や良し悪しによって、子どものスマートフォン利用が「中毒」になるのか「特技を伸ばす過程」になるのかが変わるだろう。


松村 太郎


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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