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Lifestyle 公開日: 2018.12.05

ドライバー認証機能から見えるスバルの”想い”

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国内車種には見当たらなかったドライバー認証機能を、スバルは高級車種ではなく売れ筋のフォレスターに搭載した。

 例えば、大きな駐車場で、自分のクルマを探すとき、どうするだろうか。駐車区画はもちろんだが、モデル、色、それにナンバープレートで判断する。では、クルマが運転者を判断するにはどうするだろう?

 デジタル技術が進み、昨今のクルマはドライバーを認証するようになってきている。いろいろな方法があるなかで、多く見られるのはモニター画面で名前を入力し、登録された利用者のデータを呼び出す方法だ。あるいはデジタルキーといって、スマートフォンが利用者のIDになる場合もある。

 ドライバー認証システムを使うメリットは、1台のクルマを複数の利用者で使用するときに発揮される。それにより、自分が使うときに、電動シートの位置をあらかじめ設定した位置に変えてくれるといったことが可能になる。左右のドアミラーの位置、場合によっては好みの音楽やナビゲーションの設定まで、デジタルキーを通じて個別のデータが呼び出されるのだ。
例えばたとえば写真の男性はドライバーモニタリングシステムに「Driver A」として登録している
 ドライバー認証システムは、このように便利なのだけれど、ドイツ車の専売特許のようなところがある。私の知る限り、日本車にはこれまで存在しなかった。

「ドライバーを見守っているクルマ」を意識させたい

 そんな中、スバルが新型「フォレスター」で先進的なドライバー認証システムを採用した。車内のカメラを使う顔認証システムだ。スバルでは「ドライバーモニタリングシステム」と呼んでいる。

 「登録できるのは5人まで。車載カメラが運転席に乗り込んだドライバーを認識したら、シートポジションなどを調節します」

 私が出かけたフォレスターの試乗会で、商品開発本部でプロジェクトゼネラルマネージャーを務める布目智之氏はそう説明してくれた。
「Ken」という登録したドライバーが乗りこむとすぐにこのようなメッセージが表示されシート位置などが記録させたとおりに変わる
 今、(ドライブレコーダーは別として)車載カメラを搭載する車種はいくつもある。しかし大抵は、目線を追うために使われている。つまり運転に集中しているかモニターしているのだ。

 フォレスターの場合も、きっかけはサプライヤーから持ち込まれた、居眠り防止用のカメラシステムを採用検討したときだそうだ。ドライバーの眼の動きをモニターするカメラである。

 「当初専門メーカーから持ち込まれたカメラは比較的大きなケースに入っていたので、ステアリングコラムの上だとメーターを視界から遮ってしまい、私たちの安全設計思想とは相容れませんでした。ならば設置場所はどこがいいだろうと検討していたなかで、カメラじたいにもっと高い機能を持たせることができることに気づきました」

 それが走行中のドライバーのモニタリングシステムに、顔認証機能を付加することだったそうだ。

 「ドライバーの顔認識システムの利点はなんだ?とクルマの開発中にさんざん議論しました。そして行き着いた結論が、クルマとドライバーとの信頼感の醸成。ドライバーに、クルマが安全を見守っているという意識を持ってもらえたら、ということです」

 乗ってすぐに認証システムが作動することが大切、と布目氏が説明するポリシーが反映され、フォレスターのカメラは実によくできている。運転席に座ってエンジンをかけようとするドライバーの顔をすぐに認証し、モニターに「Hello、XXX」と名前を表示する。
顔認証システムはiPhoneのように顔の輪郭も認証の手段に使うようだ
スキャニングにはそれほど時間はかからない
筆者も自分の名前を(ちょっと短くして)登録してみた
フォレスターの「アドバンス」は加速用に電気モーターを使い、新型はリチウムイオン電池のおかげで先代より力強い
 当初の目的どおり、注意散漫になっていることを警告する機能もちゃんと備えている。オーディオ操作などで気が逸れると、警告音とともに注意が与えられるのだ。これには驚いた。居眠りしそうな時もしっかり見つけてくれそうだ。

 次の段階として、乗員全員の顔認証ということも考えられるが、プライバシーとの兼ね合いがあるので、ひょっとしたら音声で各種操作ができるボイスコマンドを作動させるくらいのほうが相性がいいかもしれない。

「みんなの生活の向上」こそがデジタル化のあるべき姿

 このドライバーモニタリングシステムを搭載しているのは、フォレスターのラインナップにあって「アドバンス」というモデル(のみ)だ。「e-Boxer(イーボクサー)」と名付けられたマイルドハイブリッドシステム搭載車両である。発進や加速のときにモーターがトルクの上乗せをする。新型では電池がリチウムイオンとなり、より力強く走るようになった。

 ご存じの方も多いだろうが、フォレスターは機能性の高いSUVである。全長4.5メートルの適度なサイズのボディと、広い室内空間と大きな荷室で使い勝手がよい。日本で最も売れているスバル車だ。

 そこがおもしろい。ドライバーモニタリングシステムのような先進的システムは通常、電気自動車や高級パーソナルカーのように商品コンセプトが特別なモデルと相性がいいと思われている。スバルはそうはせず、309万円の機能主義的なSUVに初めて採用したのである。
かなり活発に走って楽しい、2リッター水平対向に小さな電気モーターを組み合わせたフォレスター・アドバンス
 これを知ってSUVをラインナップする日本の他メーカーでは「やられた」と一言。ドイツの自動車メーカーでいわゆるユーザーエクスペリエンス技術を担当している技術者も、ドライバーモニタリングシステムが標準装備されていることは、「たいしたものだ」と高く評価していた。

 デジタル技術は、使う人をあらかじめ選別するのでなく、今回のフォレスターでみられるとおり、最も必要とされるマーケットから広がっていくものといえる。

 メルセデス・ベンツも「ハイ、メルセデス」と呼びかけると「なにかご用ですか」とクルマのAIが応える音声認識を実用化し、ラインナップにおいて最も下にあるAクラスから採用した。

 なぜ最上級のSクラスでなくAクラスから?という問いに対する答えは、「このクルマのユーザーがこれを最も必要としてくれる層」というものだった。

 これこそがデジタライゼーションのもっともあるべき姿なのだろう。一部の人のものであってはならない。みんなの生活を向上させてくれる方策なのだ。


小川 フミオ


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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