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Lifestyle 公開日: 2018.12.12

デジタル技術を使って挑む”昔のクルマ”市場

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メルセデス・ベンツが取り組む3Dプリント。昔のクルマの貴重な部品を再設計。

富裕層を中心に昔のクルマが流行中。写真は1958年の300SLロードスター(以下、写真提供:Daimler AG)
 「A40 198 811 00 25」「A198 580 00 65」……。これらは大事な数字だ。少なくとも古いメルセデス・ベンツ車を所有している人たちにとっては。

 前者の数字は室内ミラーのベース、後者はエンジンのスパークプラグのホルダーのパーツ番号である。昔のクルマがけっこう流行っているが、こういうパーツは入手が困難だ。それを今、メルセデス・ベンツでは3Dプリンターで作って供給しようとしてくれている。

 室内ミラーのベースとスパークプラグ・ホルダーは、1954年に発売されていまや世界的にコレクター垂涎の的となっているW198ことメルセデス・ベンツ300SLのものだという。
サンルーフ用のローラーも当時の純正パーツは稀少だ
 サンルーフのローラーもある。フィンテールを持っていたW110(61年)とSクラスのW111(59年)とW112(61年)、さらにいままた日本でも若い人を中心に人気再(々々)燃のW123(76年)のための部品だそうだ。
テールフィンを持っていた220SE(W111)
写真だとわかりにくいがこの300SE(W112)はボディ同色の金属製のサンルーフを備えている
W123とコードネームを持つコンパクト・メルセデス
 おもしろいのは「改良が加えられている」(メルセデス・ベンツ)ことだ。室内ミラーのためのパーツはアルミニウムの削り出しで作られつつ、オリジナルより長くなっている。
 あえてそうした理由を、メルセデス・ベンツでは「安全性を高めるため」としている。300SLの室内ミラーはいまのクルマのように天井に取り付けてあるのでなく、ダッシュボードに置かれている。オリジナルだとやや低すぎて、後方視界が遮られることを”問題視”したのだ。
3Dプリンターで作られた室内ミラーの台座はオリジナルよりやや長い
 スパークプラグのホルダーも同様にアップデートされている。オリジナルではプラグを雌型にねじ込むのだが、そのうちグラついてくる可能性がある。そのため今回はマグネットを使ってしっかり固定できるよう、デジタル技術で再設計した。
スパークプラグのホルダーも3Dプリンターで作られた
 スライディングルーフはクラシック・メルセデスの魅力の一つだが、スライドさせるための部品が劣化すると動きが渋くなったり、最悪、開け閉めができなくなる。それを今回3Dプリンターで作ったパーツと交換すれば「新車を買った初日のようにスムーズに動かせる」(メルセデス・ベンツ)そうだ。

 3Dプリンターは自動車設計においても、小さなパーツを試作するのに欠かせない仕組みである。メルセデス・ベンツはこの分野で30年の歴史を持つことを謳う。

 かつては「オールドタイマー(ドイツ語でクラシックカーのこと)センター」と呼ばれ、いまは「メルセデス・ベンツ・クラシックセンター」という、古い車両の修復を行うメルセデス・ベンツのビジネスは盛んだ。

 富裕層がクラシックカー趣味を重視する昨今、高級自動車メーカーでは、顧客の古いモデルのメンテナンス、あるいは修理のアドバイスなどのサービスが一般化している。さらに最近は、メーカー自身が古い車両を見つけて徹底的な修復を行ったのちに販売するビジネスも行われている。

 ジャガー/ランドローバーやアストンマーティンはとりわけ熱心だ。スクラップヤードよろしく昔のランドローバーを並べて顧客に選ばせ、そこから修復を始めている。またジャガーやアストンマーティンのように、昔のレーシングモデルを当時と同じ手法でゼロから作る場合もある。フェラーリでも同種のサービスを提供している。

 富裕層はクラシックカーを手に入れたら、それでヒストリックカーのラリーに出走するとか、コンコースデレガンス(美しく保存されていたり、稀少なモデルを評価するコンテスト)に出展したりする。世界的にこの種のイベントは数多い。それを支えているのがデジタル技術というのは、なかなか興味深い話ではないか。


Text/小川 フミオ


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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