バーチャル・ル・マンでは、TOYOTA GAZOO RacingのTS050ハイブリッドではく、オレカ07を使うのがレギュレーションだった(写真=トヨタ自動車提供)

 「バーチャル」が意味するのは、PlayStationなどを使っている人は先刻ご承知の、オンラインによる対決。個人の楽しみだと思われていたものが、自動車メーカーが本格的に参入する、新しいジャンルのレースへと発展してきている。


 「eモータースポーツ」と呼ばれるオンライン型のレースについて、以前からトヨタ自動車は、「TOYOTA GAZOO Racing(TGR)のモータースポーツ活動の柱の一つとする」と標榜していた。


TOYOTA GAZOO Racingのレース参戦中の風景(写真=トヨタ自動車提供)
TOYOTA GAZOO Racingのレース参戦中の風景(写真=トヨタ自動車提供)

 2020年5月には、PlayStation4用ソフトウエア「グランツーリスモSPORT」を使い「e-Nurburgring Race」なるオンラインイベントを実施。SUBARUとともに車両を走らせた。他に「GR Supra GT Cup」もある。


 2020年6月13日から14日にかけて24時間オンラインで対戦が行われた「バーチャル・ル・マン24」は、F1やラリーなど、国際モータースポーツ選手権のレギュレーションを制定するFIAのお墨つき。


 新型コロナウイルス感染症の拡大により実際のレースが中止を余儀なくされたことなどが、業界全体によるeモータースポーツへの取り組みに拍車を掛けているようだ。


 「主催のACO(フランス西部自動車クラブ)から、ル・マン24時間のチャンピオンチームとしてイベントへの参加を求められ、ファンの皆様のために、ワクワクするレースの一端になればと、参加を決めました」


 トヨタ自動車 TOYOTA GAZOO Racingの広報担当者は、背景について語ってくれた。


 レースは、各エントラント(参戦チーム)が、オンラインで参戦。シムレース好きにはおなじみの、コクピットを模したシミュレーターで、ステアリングホイールを握り、正面の画面で展開するルマンのコースに合わせてバーチャルなマシンを走らせる。


 自動車メーカーやレースチームは、これまでにもレースシムを車両開発や、レース前のコース習熟に活用してきた。加えて、シムゲームで”鍛えた”ルーキーが、実際のレースを走ったところ、驚くような好成績を出すことも。


レースエンジニアが、燃料、タイヤ、ピットストップ戦略を軸に貢献(写真=トヨタ自動車提供)
レースエンジニアが、燃料、タイヤ、ピットストップ戦略を軸に貢献(写真=トヨタ自動車提供)

 「バーチャル・ル・マン24」には、レーシングシミュレーター「rFactor2」が採用された。ニュルブルクリンクやシーブリング、そしてル・マン24時間のコースが用意されているシムゲームなので、すんなりとコトが進むという主催者側の読みがあったのかもしれない。


 実際には、日本のメーカーなどは「rFactor2」より「PlayStation」とのマッチングをはかってきたので、オンラインレース前のセッティングには、少々手を焼いたとか。


 「rFactor2についてはほとんど経験がなく、初期準備段階から学ぶことが多かったです。 レース中の各手順、特にピットストップからのドライバー交代は非常に複雑で、レース前にたくさん練習しました」 (トヨタ自動車 TOYOTA GAZOO Racing)


 参戦したのは、日本代表が「TOYOTA GAZOO Racing」。18年と19年、2年連続でル・マン24時間レースを制してきた実績を持つトップチームだ。加えて、同じLMP1(ル・マンプロトタイプカテゴリー1)」で競合するレベリオンも、「レベリオン・ウィリアムズeスポーツ」で加わった。


 TOYOTA GAZOO Racingは、2台体制で参加。7号車は世界選手権ポイントリーダーでもあるマイク・コンウェイ、小林可夢偉、ホセ・マリア・ロペスの3名に、ル・マン出身のeモータースポーツドライバーであるマキシム・ブリアン(23歳)が加わった。


 8号車は、セバスチャン・ブエミとブレンドン・ハートリーのプロドライバーに加え、TOYOTA GAZOO Racing WECチャレンジプログラムの育成ドライバーである山下健太が、レギュラードライバーの中嶋一貴に代わり出場。4人目のドライバーは、オランダ・モンフォール出身のユーリ・カスドルプ(23歳)だった。


 コンウェイ、ロペス、ブエミ、ブリアン、カスドルプはヨーロッパ、ハートリーは自宅からシミュレーターでレースに参加。小林と山下は東京から。このとき、中嶋一貴が山下選手のサポート役に回ったそうだ。


 TOYOTA GAZOO Racingは、ユーリ選手のrFactor2の豊富な経験を生かし、セットアップを詰めたという。


 「ル・マンでは、ストレートが長いためトップスピードに重点を置きますが、各スティントを着実に走行できるよう、タイヤなどの細かい点も調整しました」


 トヨタ自動車 TOYOTA GAZOO Racingの言である。


 「練習中は、コミュニケーションアプリのWhatsAppとDiscordを介し、各ドライバーとレースエンジニア間でセットアップ調整をしたり、またシムドライバーがシムレースに必要なスキルを他のドライバーたちにレクチャーするなど、チームに一体感を生みながら、練習走行していました」


 GTEプロという市販車ベースのクラスでは、ポルシェ、フェラーリ、コーベットといったクラス優勝をいつも競い合うメイクスがずらり。50台からなるリストを観ていると、レース前から気分がアガったのも事実だ。


 6月13日の15時(欧州中央時間)にレースはスタート。途中から夜間レースになり、そして翌14日の15時に終了と、実際のル・マン24時間レースをなぞった長丁場に。


夜間走行もスリリングだった(写真=トヨタ自動車提供)
夜間走行もスリリングだった(写真=トヨタ自動車提供)