ルーフには、雨水を集める、ソーラー発電、日よけといった機能が与えられている(画像は模型)
ルーフには、雨水を集める、ソーラー発電、日よけといった機能が与えられている(画像は模型)

 ベルタワーによる「オープンソース・コミュニティーズ」は、ごく簡単に見どころを説明すると、雨水を集める形の屋根をもった建物。構造はシンプルで作りやすい。かつ建設中も、完成してからも、地域住民に利益をもたらす構造でできているのだ。


 雨水に注目したのは、ケニアにとって、水が最も大きな課題だからと、ベルタワーのジョン・ブライアン・カマウ氏が説明してくれた。国土の約 8 割が乾燥地・半乾燥地で、森林率が7%(JICAのデータによる)というケニアでは、特に首都ナイロビ以外の地域で、飲料水を含めた生活水の入手に悩まされてきたという。


 とりわけ、彼らのプレゼンテーションで、モデルケースとして挙げられていたキベラの状況は深刻だそうだ。ケニア最大のスラムであり、ナイロビ近くにも関わらず、住民は、(清潔な)水不足に通年苦しんでいる。


 人によっては、夜中に5キロ歩いて川へと水をくみに行く。子どもが行かされることも多い。水をくみに行く途中の事故も少なくないとか。一方、街には飲料水を販売に来る業者もいる。しかし高価だという。安全をはじめ、経済的負担も時間的損失も、住民にとって大きな問題となっているのだ。


 ベルタワーがオープンソースのソフトウエアを使って設計した建物は、トップハットを逆さに置いたような形態。帽子ならツバにあたる傾斜型のルーフは可動式で、雨期に雨水を床下の貯水タンクへと導く役割を果たす。ベルタワーのアイデアでは、貯水タンクは二つ。雨水用と、濾過した水用だ。


 清潔な飲み水が作れれば、子どもたちを、赤痢などの疫病から守ることもできる。多くの街村では水道管が通っていたとしても、パイプの保守点検が行き届かず、水不足、あるいは水質の汚染が深刻な問題だからだ。


 もう一つ、この建物の目的は、言ってみれば、お金を生み出すところにある。建設費は、フルオプションの仕様で概算1万米ドルだそうだ。


 「例えば、1000人の住民が一人1日1ドルを出せれば、10カ月で償却できる額です。水だって1リッターあたり0.1米ドルで手に入るようになるし、しかも、水をくみにいく時間と労働が9割削減されるという計算もあります。地域にとって大きな福音でしょう」(前出・カマウ氏)


 子どもたちは、水くみの労役から解放されることで学校へ行く時間が作れ、体力も温存されるので学習意欲も高まる。地域の将来にとって大きなプラスだという。


 コミュニティーの中でクローズドのシステムにすることもできるが、より良いのは、外部に対して開かれた施設とすることだ。例えば、建物には、コミュニティースペースを設けるなどして、ビジネスセンスのある人が有償で貸し出せば、これも地域を金銭的に潤すことになる。


 ちなみに設計者のベルタワーによると、建設には、のべ1万人分の労働力が見込まれており、賃金の支払いによって多少の余裕が生まれる。またメンテナンスも必要なので、その受注を含めたビジネスモデルを構築する手もあるということだ。


 「気候変動や社会的な不公正をはじめ、世界がさまざまな問題に直面する今日、デザインには体系的に課題を解決することが求められています」と評価したのは、LDA2020の審査員を務めた米「スタジオギャング」代表のジーン・ギャング氏。


 「今回のグランプリ受賞作品はデザインによる影響範囲を、地域の経済構造を変えるところまで広げ、さらに安全な飲料水の確保という人々の生活改善において重要な問題にも取り組むものでした」(ギャング氏)


 デジタル技術で、ものづくりにおいて垣根が低くなったとする人もいる。確かに今回のグランプリはオープンソースという、まさに現代ならではの手法を使う。ただし、その場合でも、どのぐらい大きな視野に立っているかが重要だ。そこにこそ、これからのデジタルデザインの意義があると教えてくれた点が、何より優れていると言える。


ケニアのデザインコンサルティング事務所「BellTower」の面々
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