これまで後方確認用のミラーには「鏡」と、相場が決まっていた(これを光学ミラーと呼ぶ)。しかしここ数年の車載カメラの技術の進化に伴い、光学の代わりにデジタル処理された画像で後方を見るデジタルアウトサイドミラーを採用するクルマが増えてきた。


 クルマに搭載されているミラーには、大きく分けて二種類ある。一つは車内の天井から下がっているルームミラー、もう一つはドアにマウントされた左右一対のサイドミラーだ。


 前者にデジタルルームミラーを採用するメリットは、室内の荷物や後部座席の乗員の頭部に視界が邪魔されないこと。さらに、トランクの後端あたりに広角レンズのカメラを搭載するため、物理的なミラーより映し出す画像の範囲が広い。以上が大きなメリットである。


 そして後者を搭載するクルマが、最近増えている。デジタルアウトサイドミラーだ。認可が下りている日本や欧州をはじめとした国内外のクルマに採用されている。


 「従来のミラーを小型のカメラに置き換えることで、斜め前方の視界を拡大するとともに、風切音の低減による高い静粛性を実現しています」。レクサスでは、鏡を使わないため小型化できるデジタルアウトサイドミラーの利点をこのように説明。


 加えて、「カメラ部を雨滴が付着しにくい形状としたほか、ディスプレイを室内に搭載することで、天候の影響を受けにくい」ことも強調されている。


 考えてみれば、従来のアウトサイドミラーは鏡面が外部にあり、ドライバーはサイドウインドウ越しにそれを見ているわけだ。解像度の高いカメラとモニターを組み合わせたデジタルアウトサイドミラーに慣れると、従来のミラーがもどかしく思えるのも事実。


 「雨天時でも雨が付着したサイドウインドウを通さず、モニターで鮮明な映像を確認することができ、安全運転に貢献します」。170万画素の高精度カメラをボディーの左右に備え、ダッシュボードの左右に6インチのモニターで画像を映す「Honda e」を手がけたホンダでは、安全面の貢献度が高いことを強調する。


Honda eはカメラで捉えた映像をインストルメントパネル左右に配置した6インチモニターに映し出す
Honda eはカメラで捉えた映像をインストルメントパネル左右に配置した6インチモニターに映し出す

 デザイン的なアプローチは各社さまざま。2018年10月に先陣を切って市場に投入されたレクサスESは、従来のアウトサイドミラーを見ようと動かした視線の先、Aピラーの付け根あたりにモニター画面を備える。


 一方、2020年9月に日本導入が開始された「アウディe-tron(イートロン)スポーツバック」は全く異なるデザインだ。モニターが左右ともにドアの内側に埋め込んである。ミラーというかカメラは、アームのような形状で、従来の光学ミラーがあったあたりから突き出している。


アウディe-tronスポーツバックでは、カメラがとらえた映像をダッシュパネルとドアとの間に設置されたOLEDディスプレイに表示
アウディe-tronスポーツバックでは、カメラがとらえた映像をダッシュパネルとドアとの間に設置されたOLEDディスプレイに表示

 最もカメラが小さいのは「Honda e」だ。ボディーから小さな突起が出ているだけのような特異なデザイン。そのため知らないと、アウトサイドミラーを付け忘れたように思えるほどだ。でも映像は鮮明で、ドライバーの感覚とも合っているため、走り出して一瞬で慣れる。


 主たる構成部品は、カメラ、ECU、ディスプレイで構成される。それぞれ開発メーカーが異なる。「レクサスES」を例に取ると、CMOS(光を感じて電気信号に変える半導体センサー)カメラはパナソニック製 (発売当時)。一方、撮影された映像を各種車両情報に基づいてリアルタイムに処理・制御するECU(Electronic Control Unit)は、デンソー製という具合だ。


 大抵、ウインカーレバーを動かしたり、リバース(後退)ギアに入れたときなど、表示エリアを自動的に拡大。さらに、ドライバーの操作で任意に表示エリアを広げることも可能となっている。


 面白いのは、韓国のヒュンダイモーターの「NEXO」(ネッソ)のシステムだ。世界的人気を誇るK-POPの7人組、BTSを広告塔に使った燃料電池のSUVである「ネッソ」。このクルマには、ウインカーレバー操作時に後方の画像を映し出すブラインドスポットビューモニターが装備されている。


燃料電池で走るEVのヒュンダイ・ネッソは正式販売していないものの、「エニカ」のカーシェアリングで乗ることができる
燃料電池で走るEVのヒュンダイ・ネッソは正式販売していないものの、「エニカ」のカーシェアリングで乗ることができる

 ウインカーを操作すると、右に出したときは右後方、左は左後方と、カメラが後方を映し、それがメーターパネル内のモニターで見られるのだ。水素を燃料に電気を作って走るSUVである「ネッソ」は、通常は光学ミラーを使い、補助的にデジタルカメラの映像を使う。


 高速道路での車線変更時や、市街地で左折するときに後方から近づいてきた二輪車や歩行者を映してくれる。画像の処理速度と解像度がともに高いため、これも慣れると、かなり使い勝手が良さそうなシステムだ。ランボルギーニのようなエキゾチックスポーツカーでも重宝されそうな技術である。


 テスラ車にも、クルマの側面下部を常にカメラで映し出すモニターが装着されている。日常的にテスラを使った経験がないので、どれぐらい役立つかは不明だけれど。


 ちなみに価格はどのぐらいするだろうか。参考までに「レクサスE300h」のオプションでは、デジタルルームミラーが11万円、デジタルアウトサイドミラー(LEXUSではデジタルアウターミラーと呼称)は標準モデルで22万円、F Sportでは28万7100円だ。


レクサスESのデジタルアウターミラーは2020年8月に改良され、走行時にモニターから見える他の車両、壁、障害物との距離感を測りやすくする距離目安線の表示機能が追加された
レクサスESのデジタルアウターミラーは2020年8月に改良され、走行時にモニターから見える他の車両、壁、障害物との距離感を測りやすくする距離目安線の表示機能が追加された

 一方、Honda eはクルマの価格に組み込まれている。このクルマの場合、新しさを強調するためにも、ユニークな形状のカメラが必要だったとも言える。ここに挙げたデジタルアウトサイドミラーで、さまざまな意味で最も優れていると個人的に思ったのは、このHonda eだ。レーンチェンジなども、一切の不安がない。


 大昔は、フェンダーミラーしかなく、海外のドアに取り付けた鏡面ミラーはスタイリッシュだなあと憧れたものだ(1983年に日本でも認可が下りたとされる)。スタイル主体から技術主体へ。ミラーひとつ取っても、クルマは変わってきているのである。

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