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公開日: 2022.10.24
DX投資促進税制とは何か?期限や内容・適用要件などを解説
DX投資促進税制とは、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)促進のため創設された、デジタル環境構築への投資に対する税負担軽減措置である。この記事では、DX投資促進税制とはどのような制度なのか、期限や内容、適用要件について解説する。

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DX投資促進税制とは何か?
そもそもDXとは
DXは、現在は主に「企業がデジタルテクノロジーを活用して顧客や社会のニーズに基づいた新たな製品やサービスを提供し、ビジネスを変革すること、またそれにより競争力を高めること」を意味する語として使われている。
DX投資促進税制の概要
DX投資促進税制とは、企業のDX促進のため、経済産業省によって2021年度の税制改正において新設された税額控除・特別償却の優遇装置である。国内企業のDXの促進を目的としており、納税環境のデジタル化を図るための“電子帳簿保存等制度”などとともに導入された。
この制度は企業がデジタル環境の構築のためソフトやハードに行った投資を対象としており、利用のためには一定の条件を満たした上でDX認定を受け、事業適応計画を作成・申請する必要がある。
この制度は企業がデジタル環境の構築のためソフトやハードに行った投資を対象としており、利用のためには一定の条件を満たした上でDX認定を受け、事業適応計画を作成・申請する必要がある。
DX投資促進税制の背景と目的

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DX投資促進税制が創設された背景には新型コロナウイルス感染症拡大の影響があるといえるだろう。経済が落ち込む一方で、これを構造変化の機と捉え、経営戦略やデジタル戦略の改革を進めるべきだという意見が高まりを見せた。先の見通せない状況において、ニーズに適応し競争力を向上させるDXの重要性が高まったと考えられる。
DX投資促進税制の内容について
対象者
DX投資促進税制は全社規模でDXに取り組む、青色申告法人である認定事業適応事業者を対象とする。部署単位や拠点単位でのDXは適用外となるため注意が必要だ。
また後述する「デジタル要件(D要件)」と「企業変革要件(X要件)」を全て満たした上で、“事業適応計画”を作成して経済産業大臣の認定を受けてから設備の導入を行わなくてはならない。
また後述する「デジタル要件(D要件)」と「企業変革要件(X要件)」を全て満たした上で、“事業適応計画”を作成して経済産業大臣の認定を受けてから設備の導入を行わなくてはならない。
対象資産
対象となる資産は下記のとおりである。
1.取得(購入)あるいは製作したソフトウェア
2.繰延資産(クラウド技術を活用したシステムの移行にかかった初期費用)
3.1または2と連携して使用する取得または製作した機械装置・器具備品のいずれか
なお中古設備や、試験研究・ソフトウェア業・情報処理サービス業・インターネット付随サービス業に用いる資産および国内での事業に用いない資産は対象外となる。
1.取得(購入)あるいは製作したソフトウェア
2.繰延資産(クラウド技術を活用したシステムの移行にかかった初期費用)
3.1または2と連携して使用する取得または製作した機械装置・器具備品のいずれか
なお中古設備や、試験研究・ソフトウェア業・情報処理サービス業・インターネット付随サービス業に用いる資産および国内での事業に用いない資産は対象外となる。
受けられる税制措置
DX投資促進税制には税額控除と特別償却があり、利用できるのは2つのうちいずれかひとつだけである。
税額控除とは課税所得金額に税率を乗じて算出した所得税額から一定の金額を控除する制度で、税率が軽減 されるものと、所得税額から所定の金額が差し引かれるものに分けられる。DX投資促進税制に適用されるのは前者に該当する。
一方、特別償却とは通常の減価償却費に経費の追加計上ができる制度のことである。
税額控除とは課税所得金額に税率を乗じて算出した所得税額から一定の金額を控除する制度で、税率が軽減 されるものと、所得税額から所定の金額が差し引かれるものに分けられる。DX投資促進税制に適用されるのは前者に該当する。
一方、特別償却とは通常の減価償却費に経費の追加計上ができる制度のことである。
適用額・控除額
税額控除は基本的に3%となる。ただしグループ外の他法人ともデータを連携・共有する場合には5%となる。また特別償却では通常の減価償却費に加え取得価額の30%を当期償却額とできる。
ただし投資額の上限は300億円となっており、300億円を上回る投資を行った場合は300億円までが対象となる。また投資額の下限は国内における売上高の0.1%以上となっている。税額控除の上限は、同時に創設された“カーボンニュートラル投資促進税制”と合わせて当期法人税額の20%である。
ただし投資額の上限は300億円となっており、300億円を上回る投資を行った場合は300億円までが対象となる。また投資額の下限は国内における売上高の0.1%以上となっている。税額控除の上限は、同時に創設された“カーボンニュートラル投資促進税制”と合わせて当期法人税額の20%である。
適用期限
DX投資促進税制の適用期限は2023年3月末となっている。利用のためには期間内に事業適応計画の認定を受け、投資対象となったソフトウェア・ハードウェアを実際に事業で利用していなければならない。適用期限までに必要書類を提出しただけでは適用されないので注意が必要である。
DX投資促進税制の適用要件とは

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DX投資促進税制には、適用条件としてデジタル要件(D要件)と企業変革要件(X要件)の2種類が設定されている。D要件では3つ、X要件では2つの要件をいずれも満たさなくてはならない。
デジタル要件(D要件)
D要件には「データ連携」「クラウド技術の活用」「情報処理推進機構(IPA)が審査する『DX認定』の取得」の3つがある。
データ連携とは内部データと他の法人などが有するデータまたは事業者が新たに取得するデータを連携することを指す。
IPAは「頼れるIT社会」の実現に向け、情報セキュリテーやソフトウェアの高信頼化、IT人材育成などの施策を展開する政策実施機関である。IPAは「DXに関して優良な取り組みを行っていると認めた企業」に対し、DX認定を与えている。
データ連携とは内部データと他の法人などが有するデータまたは事業者が新たに取得するデータを連携することを指す。
IPAは「頼れるIT社会」の実現に向け、情報セキュリテーやソフトウェアの高信頼化、IT人材育成などの施策を展開する政策実施機関である。IPAは「DXに関して優良な取り組みを行っていると認めた企業」に対し、DX認定を与えている。
企業変革要件(X要件)
X要件には「全社の意思決定に基づくものであること」「一定以上の生産性向上が見込まれること」がある。
IT部門と現場の連携不足によりデジタル技術が活用し切れない企業もあるため、部門ごと、拠点ごとといった限定的な取り組みではなく、会社全体が一体となってDXに取り組んでいることを示す必要があり、そのために取締役会などの決議文書を添付することが求められる。
また、ROA(総資産利益率)や売上高伸び率などの上昇が見込まれることも求められる。
IT部門と現場の連携不足によりデジタル技術が活用し切れない企業もあるため、部門ごと、拠点ごとといった限定的な取り組みではなく、会社全体が一体となってDXに取り組んでいることを示す必要があり、そのために取締役会などの決議文書を添付することが求められる。
また、ROA(総資産利益率)や売上高伸び率などの上昇が見込まれることも求められる。
DX投資促進税制の手続きと利用の流れ

手続きに必要なもの
DX認定の取得時に必要な書類
DX認定の取得時、IPAに提出が必要な書類は以下の通りである。
・認定申請書
・認定申請書の添付資料
・申請チェックシート
DX投資促進税制の事業適応計画申請時に必要な書類
DX投資促進税制を利用するための事業適応計画申請時に必要な書類は以下の通りである。
・定款の写し
・事業報告の写し
・貸借対照表
・損益計算書
・生産性の向上または需要の開拓について
・財務内容の健全性の向上について
・経営の方針の決議または決定の過程について
・計画の実施に必要な資金の使途およびその調達方法の内訳について
・暴力団排除に関する制約事項
・前向きな取り組みの根拠(成長発展事業適応または情報技術事業適応に関する計画に限る)
・「データ連携」および「クラウド技術の活用」について(情報技術事業適応に関する計画に限る)
・第三者機関による認証(エネルギー利用環境負荷低減事業適応を行う者が金融支援を受けようとする場合に限る)
・融資計画(利子補給制度を受けようとする場合に限る)
DX認定の取得時、IPAに提出が必要な書類は以下の通りである。
・認定申請書
・認定申請書の添付資料
・申請チェックシート
DX投資促進税制の事業適応計画申請時に必要な書類
DX投資促進税制を利用するための事業適応計画申請時に必要な書類は以下の通りである。
・定款の写し
・事業報告の写し
・貸借対照表
・損益計算書
・生産性の向上または需要の開拓について
・財務内容の健全性の向上について
・経営の方針の決議または決定の過程について
・計画の実施に必要な資金の使途およびその調達方法の内訳について
・暴力団排除に関する制約事項
・前向きな取り組みの根拠(成長発展事業適応または情報技術事業適応に関する計画に限る)
・「データ連携」および「クラウド技術の活用」について(情報技術事業適応に関する計画に限る)
・第三者機関による認証(エネルギー利用環境負荷低減事業適応を行う者が金融支援を受けようとする場合に限る)
・融資計画(利子補給制度を受けようとする場合に限る)
流れ1 取締役会で決議を行う
DX投資促進税制の適用を受けるには全社規模での取り組みである必要がある。取締役会での決議を行い、その決議文書を用意しておくとよいだろう。
流れ2 事前相談
所轄の省庁に事前相談を行い、要件に合致するかなどについて確認・相談する。相談は計画の開始を予定している2カ月ほど前に行うとよい。
流れ3 DX認定の取得
DX投資促進税制の適用に関する手続きを行う前に、まずはDX認定の取得が必要となる。申請はIPAのWeb申請システム“DX推進ポータル”より行う。
流れ4 事業適応計画の作成と申請
DX投資促進税制を利用するためには、事業適応計画を作成し、事業を所管する省庁に提出して経済産業大臣の認定を受けなくてはならない。また併せて“情報技術事業適応に係る確認申請書”を提出する必要がある。
流れ5 事業適応計画の実施
認定された事業適応計画に基づいてソフトウェアや設備などを取得し、運用する。
流れ6 税務申告
適用事業年度が終了したら、特別償却または税額控除を適用して税務申告を行う。なお、税務申告に当たっては確認書の写し、認定書の写し、認定計画の写しが必要となる。
流れ7 実施状況報告書の提出
適用事業年度の終了から3カ月以内に経済産業大臣に“年度における認定事業適応計画の実施状況報告書”を提出する。
情報技術事業適応に係る課税の特例とは

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特例の内容
“成長発展事業適応”および“情報技術事業適応”を実施する事業者は要件を満たすことでDX投資促進税制の適用に加え、“繰越欠損金の控除上限”の特例制度を利用できる。
繰越欠損金の控除上限の特例とは、赤字であっても事業の再構築や再編に取り組む企業を対象とし、繰越欠損金の控除上限(50%)を最大100%に引き上げるというものである。
繰越欠損金の控除上限の特例とは、赤字であっても事業の再構築や再編に取り組む企業を対象とし、繰越欠損金の控除上限(50%)を最大100%に引き上げるというものである。
特例を受けるための要件
特例を受けるためには、以下のすべての要件を満たす必要がある。
要件1 情報技術適応設備などについて
次のいずれにも該当する必要がある。
・クラウドシステムの構築または使用に必要なものであること
・主としてソフトウェア業、情報処理サービス業またはインターネット付随サービス業に該当する事業に用いるものでないこと
・装置や備品などについてはクラウドシステムにおいて利用するデータの全部もしくは一部を継続的かつ自動的に収集するもの、または当該データの分析を踏まえた生産・販売そのほかの事業活動について継続的に指示を受けるものであること
・繰延資産については、クラウドシステムの構築または使用に関わるものであること
要件2 取組類型について
次のいずれかに該当する必要がある。
・新商品などの売上高が投資額の10倍以上となること
・新たな生産方式の導入などにより1単位当たり製造(売上)原価が8.8%以上低減すること
・新たな販売方式の導入などにより1単位当たり販売費(一般管理費)が8.8%以上低減すること
要件3 生産性の向上または新たな需要の開拓について
次のいずれかの目標を達成する必要がある。
・総資産営業利益率が過去5年の総資産営業利益率の平均値より1.5%以上向上すること
・事業適応に関わる商品などの売上高伸び率が業種の伸び率(基準年度とその4事業年度前比)を5%以上上回ること
要件4 情報技術事業適応設備などの取得費について
次の条件を満たす必要がある。
・合計額が当該企業の国内売上高の0.1%以上となると見込まれること
要件5 DX認定について
次の条件を満たす必要がある。
・DX認定を受けた者が行う情報技術事業適応であること
次のいずれにも該当する必要がある。
・クラウドシステムの構築または使用に必要なものであること
・主としてソフトウェア業、情報処理サービス業またはインターネット付随サービス業に該当する事業に用いるものでないこと
・装置や備品などについてはクラウドシステムにおいて利用するデータの全部もしくは一部を継続的かつ自動的に収集するもの、または当該データの分析を踏まえた生産・販売そのほかの事業活動について継続的に指示を受けるものであること
・繰延資産については、クラウドシステムの構築または使用に関わるものであること
要件2 取組類型について
次のいずれかに該当する必要がある。
・新商品などの売上高が投資額の10倍以上となること
・新たな生産方式の導入などにより1単位当たり製造(売上)原価が8.8%以上低減すること
・新たな販売方式の導入などにより1単位当たり販売費(一般管理費)が8.8%以上低減すること
要件3 生産性の向上または新たな需要の開拓について
次のいずれかの目標を達成する必要がある。
・総資産営業利益率が過去5年の総資産営業利益率の平均値より1.5%以上向上すること
・事業適応に関わる商品などの売上高伸び率が業種の伸び率(基準年度とその4事業年度前比)を5%以上上回ること
要件4 情報技術事業適応設備などの取得費について
次の条件を満たす必要がある。
・合計額が当該企業の国内売上高の0.1%以上となると見込まれること
要件5 DX認定について
次の条件を満たす必要がある。
・DX認定を受けた者が行う情報技術事業適応であること
DX投資促進税制の適用にあたって企業が行うべきこととは

対応1 DX認定の取得
前述のとおり、DX投資促進税制の利用には事前にDX認定の取得を行うことが必須となる。DX認定の取得には、IPAが“情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律”に基づいて定めたデジタルガバナンス・コードの基本的事項に準拠する必要がある。
対応2 他の税制の活用
DX投資促進税制以外の他の税制を併せて活用することも薦められる。DX投資促進税制の創設により産業競争力強化法が改正され、事業適応計画の認定が制度化された。
これに伴って成長発展事業適応として繰越欠損金に対する控除上限の特例が認められ、“エネルギー利用環境負荷低減事業適応”としてカーボンニュートラル税制も設けられている。現在公募されている事業再構築補助金などとの併用も考えられるだろう。
これに伴って成長発展事業適応として繰越欠損金に対する控除上限の特例が認められ、“エネルギー利用環境負荷低減事業適応”としてカーボンニュートラル税制も設けられている。現在公募されている事業再構築補助金などとの併用も考えられるだろう。
同時に確認しておきたい制度
IT導入補助金
IT導入補助金とはパッケージソフト本体やクラウドサービスなどのITツール導入費用に対する補助金制度だ。主に中小企業や小規模な事業者を対象としている。
IT導入補助金には通常枠とセキュリテー対策推進枠が設けられており、通常枠はプロセス数(業務工程や業務種別)によって「A類型」と「B類型」に分けられる。補助金は一律ではなく、枠によって異なるため、利用の際はどの枠が該当するか要チェックだ。
IT導入補助金には通常枠とセキュリテー対策推進枠が設けられており、通常枠はプロセス数(業務工程や業務種別)によって「A類型」と「B類型」に分けられる。補助金は一律ではなく、枠によって異なるため、利用の際はどの枠が該当するか要チェックだ。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、正式には“ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金”といい、中小企業や小規模事業者が今後予定されている働き方改革やインボイス導入などの制度変更などに対応するため、革新的サービスや試作品の開発、生産プロセスの改善を行う際にその設備投資などを支援する補助金である。
中小企業庁および独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施しており、利用の際にはインターネットを通じて電子申請を行う。
中小企業庁および独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施しており、利用の際にはインターネットを通じて電子申請を行う。
DX投資促進税制を利用するために
DX投資促進税制とは企業のDXを推進する目的で経済産業省によって創設された税制控除または特別償却の制度である。利用のためには事前に情報処理推進機構(IPA)による“DX認定”を取得せねばならず、また各種の要件を満たす必要がある。全社的な取り組みも求められるため、利用を検討している場合には早期の対応が肝心だといえるだろう。