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経営企画 2020.03.03

日本企業に求められる生産性向上とその取り組み

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 近年、国が推し進める働き方改革や国際競争力に関するニュースなど、企業における生産性向上への取り組みについて目にする機会が増えている。日本の生産性はどのような状態なのか。また、現在の生産性が将来にどのような影響を及ぼすのだろうか。

 本記事では、「生産性」に関する基礎知識から、日本における生産性の課題についてまで、分かりやすく紹介していく。

目次

生産性とは

生産性とは、「生産要素」と、それを投入することで得られる「産出物」との割合を指す。「生産要素」「産出物」とは、次のようなものだ。

・生産要素
生産を行うために必要となるもの。例:設備、土地、建物、エネルギー、原材料、人間など

・産出物
生産の結果できたもの。例:製品、サービスなど

 つまり、生産性とは「必要なものがどのぐらい効果的に使われて、産出物ができるか」を示す割合を指す。

 例えば、従来の2倍のスピードで商品を製造できる機械を新規導入したとする。

 すると、同じ時間で2倍の商品が作れることになるため(機械の価格は従来と変わらないと仮定)、生産性が高くなったと言える。逆に、性能としては2倍のスピードで商品を製造できる機械でも、操作方法がとても複雑なためにうまく使いこなせず、これまでの半分しか商品を製造できなかったとしたら、生産性が低くなったということになる。

生産性の向上が求められる背景

 近年、日本では「生産性の向上」という声がよく聞かれるようになってきた。これは、その必要性が今まで以上に増してきたからだと言える。背景としては次の二つが挙げられる。
  • 国際社会での競争の激化
  • 労働人口の減少
 前者は世界と日本の関わりという背景、後者は日本国内の背景と言える。それぞれもう少し詳しく見ていこう。

国際社会での競争の激化

 国際社会において、日本の競争力が相対的に下がっていることは調査データに表れている。まずは下のグラフを見てみよう。
 日本の実質GDP(国内総生産)は1995年から横ばいになっている。比較対象の他国の数字が上昇している結果、1995年にはアメリカ・ヨーロッパに次ぐ順位だったものが、2016年には最下位となっている。

 また、日本では多くの業種で「サービスの質」が求められる傾向にあるが、その結果、生産性が下がってしまっているという分析もある。

 このことを示す例として、公益財団法人日本生産性本部の公表資料『データでみる「日本の生産性×働き方改革」』の調査結果がある。この調査では、29種類の日本のサービス品質と価格のバランスについて、日本人および日本に滞在経験のあるアメリカ人との意識比較を行っている。

日本のサービス品質に対する認識比較

日本人 アメリカ人
宅配便 118.3 101.9
タクシー 117.9 102.9
航空旅客 115.9 103.6
地下鉄(近距離) 115.6 110.8
コンビニエンスストア 115.4 106.4
郵便 114.5 103.1
テレビ受信サービス 113.1 97.9
モバイル回線のプロバイダー 112.1 97.8
ホテル(エコノミー) 110.7 107.1
ATM、送金サービス 110.4 106.2
ファミリー向けレストラン 108.4 105.3
コーヒーショップ 104.3 104.7
ハンバーガーショップ 102.6 102.6
大学教育 99.7 112.8
※ アメリカ=100 とした場合の指数。数字が大きくなるほど品質が高いと感じている。
出典 :公益財団法人日本生産性本部『データでみる「日本の生産性×働き方改革」』内の図9をもとに作成。

日本のサービス価格に対する認識比較

  日本人 アメリカ人
宅配便 98.1 99.9
タクシー 102.5 102.9
航空旅客 106.3 98.7
地下鉄(近距離) 103.2 100.3
コンビニエンスストア 100.7 99.5
郵便 98.3 102.8
テレビ受信サービス 98.9 99.8
モバイル回線のプロバイダー 100.1 98.0
ホテル(エコノミー) 101.0 102.7
ATM、送金サービス 100.6 101.2
ファミリー向けレストラン 101.3 99.0
コーヒーショップ 103.1 99.2
ハンバーガーショップ 103.8 99.2
大学教育 95.8 92.2
※ アメリカ=100 とした場合の指数。数字が大きくなるほど品質が高いと感じている。
出典 :公益財団法人日本生産性本部『データでみる「日本の生産性×働き方改革」』内の図10をもとに作成。

日本のサービス品質と価格に対する認識(日本人)

※ アメリカ=100 とした場合の指数。
出典 :公益財団法人日本生産性本部『データでみる「日本の生産性×働き方改革」』内の図9、図10をもとに作成。

日本サービス品質と価格に対する認識(アメリカ人)

※ アメリカ=100 とした場合の指数。
出典 :公益財団法人日本生産性本部『データでみる「日本の生産性×働き方改革」』内の図9、図10をもとに作成。

日本のサービス品質と価格に対する認識(日本人)

※アメリカ=100 とした場合の指数。
出典 :公益財団法人日本生産性本部『データでみる「日本の生産性×働き方改革」』内の図9、図10をもとに作成。

日本サービス品質と価格に対する認識(アメリカ人)

※アメリカ=100 とした場合の指数。
出典 :公益財団法人日本生産性本部『データでみる「日本の生産性×働き方改革」』内の図9、図10をもとに作成。
 これらの調査結果より、日本人とアメリカ人のいずれも、ほぼすべてのサービスにおいてアメリカよりも日本の方がサービス品質は高いと答える一方で、サービス品質の高さほどには価格が高いと感じていないことが分かった。

 つまり「おもてなし」や「丁寧なサービス」が日本のサービス業の良い面と言われるものの、その品質や労力に見合った価格設定がなされていないことを示している。生産性という視点で見ると、日本の働き方は「低生産性」であり、デフレ経済(物価が下がる)や低賃金化の要因にもなっているということが分かる。

労働人口の減少

 日本では少子高齢化により、働く人の人口が減少している。下のグラフを見てみよう。
出典 :総務省|平成28年版 情報通信白書|人口減少社会の到来
 1995年には8716万人だった生産年齢人口(15~64歳)が、2015年には7592万人と1000万人以上減っている。この減少傾向は今後ますます進み、2060年には、4418万人にまで落ち込むと予測される。働ける人が少なくなる分、これまで以上に生産性を向上させる必要がある。

生産性の計算式

生産性は、次の計算式で求めることができる。

生産性=「アウトプット」(産出)÷「インプット」(投入)

 生産性とは、前述の通り、投入した生産要素と、それによって得られる産出物との割合のことである。生産要素として「何を投入したか」の視点によって、労働生産性や人時生産性、資本生産性、全要素生産性などいろいろな生産性が存在する。

 よく指標として用いられるのは次の生産性だ。
  • 労働生産性
  • 人時(にんじ)生産性
 特に労働生産性はよく使われる指標だ。この2つについて見てみよう。

労働生産性

 労働生産性は、「労働投入量1単位当たりの産出量・産出額」を示すもの。「労働量」は労働者数、労働時間、日数といったものが該当する。

 労働生産性は、次の計算式で求めることができる。

労働生産性=「生産量or付加価値額(販売金額や粗利益)」÷「労働量」

 この式から導き出されるように、「労働生産性が向上する」とは、次のどちらかを指すことになる。
  • 同じ労働量で生産量や付加価値額が増える
  • より少ない労働量で同じ量の産出物を作り出す

人時生産性

 労働者1人が1時間働く際の生産性を表す「人時(にんじ)生産性」という概念がある。労働生産性と似ているが、より限定された意味合いで語られることが多く、一般的には次の計算式で求められる。

人時生産性=「付加価値額(販売金額や粗利益)」÷「労働量(総労働時間)」

 労働生産性との違いを確認しよう。
  • 労働生産性・・・投入した労働量に対して、どれくらいの成果を生み出したか
  • 人時生産性・・・労働者1人が1時間当たりで、どのくらいの成果を生み出したか
 それぞれの計算式で「労働量」の中身が違う。労働生産性の場合は労働者の人数や労働時間、日数を用いるが、人時生産性では全労働者の労働時間の合計が用いられる。

生産性向上と業務効率化の違い

 「生産性向上」と「業務効率化」は混同されがちだが、元々は視点の異なる概念だ。それぞれの意味について見てみよう。

・生産性向上
少ないインプット(投入)で、アウトプット(産出)が多いほど生産性は高くなるため、アウトプットをより大きくするための視点であり、指標。

・業務効率化
有限の経営資源を効率的に使うためにコストを削減すること。インプットを減らすような業務改善を行うことで、結果として生産性向上につなげる手段となり得る。

 つまり、生産性を表す式で言うと、「業務効率化」は分母のインプットを減らすことになり、結果として生産性が向上する。ただし、業務効率化の対象となるような「業務のムダ」は有限であり、効率化には限度がある。そのため、業務効率化は生産性向上とは異なる概念として捉えられるのが一般的だ。

企業が取り組むべき生産性向上への対策

 生産性を向上させるために企業が行うべきこととしては、次のような取り組みが挙げられる。
  • 業務内容を明確にする「見える化」
  • コア事業とノンコア事業の設定
  • 社員のエンゲージメント・モチベーションの向上
  • IT技術の積極的な利用
 これらの施策は全て、人手を増やして、アウトプットを増やすための取り組みだ。

業務内容を明確にする「見える化」

 社内の業務手順をマニュアルとして作成するといった業務内容の「見える化」は、一般的には、次のような効果が期待できる。
  • ミスの予防
  • 品質の担保
  • 業務効率化
 個々の業務が、特定の人にしか分からない場合、「担当者以外の人が同じ作業をしようとしても誰もできない」、「他の人に業務内容を教えられない」、「第三者の目線が行き届かず、業務の改善ができない」といったことが発生しがちだ。

 「見える化」を図ることで、作業手順が明確になり、作業の問題点やボトルネックを発見・改善できたり、社内での情報共有や処理ミスの防止ができるようになったりする。また、共通している作業や資料作成の作業を、一元化して作業時間を短縮できる場合もある。

 「見える化」は、次のような手順で行う。
  1. 作業担当者が、自分の作業内容と手順を書き出す
  2. 担当者以外の人も参加して、曖昧な点や問題点を確認する
  3. 作業手順を改善する
  4. 部門連携や標準化、人事評価など社内全体の課題解決に生かす

コア事業とノンコア事業の設定

 全社的な事業をコア事業とノンコア事業とに分けることで、リソースの投入先を最適化することができる。コア事業・ノンコア事業は次のように定義できる。
  • コア事業…企業の利益を生む中核となる事業
  • ノンコア事業…それ自体は利益を生まないが、コア事業を支援する事業
 そして、それぞれ次のような特徴がある。

コア事業の特徴

  • 非定型
  • 専門的な判断が必要
  • 難易度が高く、アウトソーシングしにくい

ノンコア事業の特徴

  • 定型または定型化が可能
  • 高度な判断は不要
  • 難易度が低く、アウトソーシングしやすい
 定型化できないコア事業に集中してリソースを投下し、定型化が可能なノンコア事業はアウトソーシングすることで、中核となる事業に重点的にリソースを配分できる。

 これは個々の社員が行っている業務についても同様だ。コアとなる業務は社員が行い、定型業務をアウトソーシングすることで、組織全体のリソースが最適化され、生産性の向上が期待できる。

社員のエンゲージメント・モチベーションの向上

 社員のエンゲージメントやモチベーションを向上させることが、結果的に企業の生産性を高める。

 エンゲージメントはマーケティング用語でよく使われる言葉であり、あるブランドやサービスに対して、ユーザーが主体的・積極的にかかわろうとする心理状態、愛着度を表すものだ。「従業員エンゲージメント」といった使われ方をするときには、社員と会社とのつながり、関係性の深さを指す。社員が会社に愛着を持ったり、高いモチベーションを保ったりすることで、仕事をポジティブに捉え、組織に活力を与える効果があると言われている。

 エンゲージメントやモチベーションの向上には、ワークスタイルの自由度を高めることが有効で、一般的に次の施策がある。
  • テレワーク(リモートワーク):在宅勤務などにより、時間や場所に制限がない柔軟な働き方が可能
  • フレックスタイム:ライフスタイルに合わせた労働時間の選択が可能
 総務省の「テレワーク情報サイト」を見ると、次のようなテレワーク導入の成功事例が紹介されている。

・神奈川県のA社(Webデザイン、DTPデザイン制作、イベント企画など)
テレワーク導入の効果:平均業務処理時間の短縮、業務効率化2割アップ、育児中の勤務や地方在住デザイナーの人材確保効果など

・大阪府のB社(中小企業向け経営支援、会計サービスなど)
テレワーク導入の効果:家族の転勤、介護、育児などライフイベントに伴う離職防止や新たな雇用形態の創出、全国の顧客との面談に伴う移動時間の短縮などの業務効率向上など

 いずれの例も、業務の効率化と人材確保の面で効果が出ている。働く人のワークスタイルに合わせた環境がテレワークによって整備されることで、エンゲージメントやモチベーションの向上につながっていると考えられる。

IT技術の積極的な利用

 IT技術の利用は生産性の向上に不可欠。先に触れたテレワークもIT技術なしには実現できない。

 具体的には以下のようなIT技術を利用することが有効。

・ウェブ会議
パソコンとインターネット回線を使ってオンライン上で会議を行うシステムだ。文字だけのやりとり(チャット)による会議、モニターに互いの顔を写して顔を見ながらやりとりできるビデオ会議、ファイルやプレゼン資料の共有ができる機能などがある。会議参加者が一つの場所に集まる必要がないため移動時間や交通費の削減ができる。育児や介護などにより在宅勤務を希望する労働者への雇用を創出する。

・クラウドサービス
パソコンやスマートフォンなどインターネットへのアクセス環境があれば、場所を選ばずサービスを利用できるのがクラウドサービスだ。サービスサイトのマイページなどへログインすることで、オンライン上にデータを保存・管理できるサービス、ローカルのパソコンへのインストール不要でオンライン上で稼働するソフトウエアサービスなど、さまざまなものが提供されている。
自社サーバーやソフトウェアなどの導入費用・管理費用が削減できるだけでなく、場所を選ばないテレワークが可能となり、作業の効率化が可能だ。

・モバイル端末の支給
スマートフォンやタブレット、軽量ノートパソコンなど、どこにでも持ち運び可能なインターネット端末を業務用として配布、ウェブ会議やクラウドサービスなどと組み合わせることで、セキュリティに考慮しつつ柔軟な働き方が可能になる。

・RPAツールの導入
これまで人間が行っていたコンピューター上の作業を、RPAツールと呼ばれるロボット(ソフトウェア)に学習させて、業務を自動処理化することができる。請求書管理や売上帳簿の照合作業、交通費の照合作業など、デスクトップ上で行っている作業を1度学習させると、ロボットが自動で作業を行ってくれるため、処理ミスの予防や作業時間の短縮を図ることができる。

生産性向上の取り組み事例紹介

ここでは生産性向上の取り組みを成功させた事例を三つ紹介する。
  • 事例1:自動管理システムなどの導入で作業時間を効率化した取り組み事例
  • 事例2:勤務環境の改善で残業時間削減を実現した取り組み事例
  • 事例3:クラウド名刺管理サービスを導入して組織全体の情報を活用した取り組み事例

自動管理システムなどの導入で作業時間を効率化した取り組み事例

業種:飲食サービス業(埼玉県)

《抱えていた課題》
人手不足

《生産性向上のための対策》
・1日3回の店内の温度管理作業を効率化(冷蔵庫、冷凍庫、店内気温を自動で管理・記録するシステムを導入)
・営業力の強化(生産地、加工日などの履歴を、お客さんがスマートフォンで読み取れるシステムを導入)

《得られた効果》
・温度管理作業を自動化することで、月172時間の労働時間を削減
・品質向上や安全性向上の裏付けにより、過去5年間の売上が2倍に増加

IT技術の活用が業務効率化を実現して生産性向上につながった事例だ。

勤務環境の改善で残業時間の削減を実現した取り組み事例

業種:運輸業(東京都)

《抱えていた課題》
長時間労働

《生産性向上のための対策》
・座席や場所に制限なく働けるよう座席をフリーアドレス化(固定電話を廃止して、内線可能なスマートフォンを配布。ノートパソコンへの置き換えなど)
・労働時間に関する全社ルール策定(17時半以降の会議禁止、18時半以降の電話・メール禁止、20時までには完全退社など)
・専任部署を配置して実施をサポート(取り組み体験を共有して意識改革を図るワークショップ開催)

《得られた効果》
・1人当たり1日約2時間の時間外労働を削減
・ある部署では、社員満足度が2%から98.8%に上昇

業務効率化のルール策定、全社的な取り組みにより、意識改革につながった事例。

クラウド名刺管理サービスを導入して組織全体の情報を活用した取り組み事例

業種:地方公共団体(福岡県)

《抱えていた課題》
作業負荷、情報把握

《生産性向上のための対策》
・作業の効率化(手作業で行っていた名刺管理を、法人向けクラウド名刺管理「Sansan」を導入してIT活用)
・情報の共有化(取引先の情報や打ち合わせの情報を組織全体で共有)

《得られた効果》
・手作業で行っていた名刺管理を、ITツールの活用で5分の1に工数削減
・部署間のコミュニケーションが活性化
・組織全体で情報共有することで、さらに質の高いサービス内容の提案が可能となった

IT技術を活用して、作業の効率化や情報の共有化を実現し、質の高いサービスにつながった事例だ。

企業価値と従業員のエンゲージメントを高める生産性向上を

 「生産性」とひとくちに言っても、さまざまな角度や視点からの考え方や取り組みがある。ともすると、アウトプットだけが話題になり、業務効率化にだけが焦点が当てられがちだ。しかし、働く従業員がいきいきと働くことができ、社会に対して適切で価値ある商品やサービスを提供することの好循環は、ここで紹介したようなポイントを参考に取り組むことで生まれる。ぜひ、この機会に、働く環境や自社の取り組みについて、担当部署やチーム内で話し、マネジメントへ取り入れてみてはいかがだろうか。

 働き方改革に関する実態調査でも生産性の向上に課題を持っている企業が多いことが分かった。調査結果とともに、具体的な取り組み方法を紹介しているため、興味のある方は、ぜひ読んでみてほしい。

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