sansansansan
  • DIGITALIST
  • Workstyle
  • マネーロンダリングとコンプライアンスチェック、企業がやるべき対策は?
Pocket HatenaBlog facebook Twitter Close
経営企画 公開日: 2021.11.26

マネーロンダリングとコンプライアンスチェック、企業がやるべき対策は?

お気に入り

 反社会的勢力によるマネーロンダリングの件数は増加傾向にあり、企業としてもリスクマネジメントの強化が求められている。本記事では企業がマネーロンダリング対策として行うべきコンプライアンスチェックや、リスクマネジメントについて解説する。

【画像】Shutterstock

目次

「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」が改正。リスクマネジメントの強化が求められる

 「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下、マネーロンダリング対策ガイドライン)とは、金融庁が公表している文書で、金融機関が実施するマネーロンダリング対策の方法についてのガイドラインである。

 このガイドラインが2021年2月19日に改正されたが、内容を説明する前にこのガイドラインが制定された経緯について簡単に触れておきたい。

 マネーロンダリング対策ガイドラインが制定された目的は「マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF)」による審査に日本が合格するためである。FATFはマネーロンダリング対策に対する国際的な協調を推進するために、複数の国の政府が協力して設立した政府間会合だ。日本もこの会合に参加している。

 FATFは相互審査と呼ばれる審査を定期的に行っている。これは、各国が世界の金融ネットワークを健全に運営するために必要な施策を講じているかをチェックする審査である。2008年に第3次対日相互審査が実施されたが、この審査が非常に厳しい結果となり、日本政府に衝撃を与えた。

 これは日本で実施されているマネーロンダリングやテロ資金供与の対策には、実効性が担保できていないと評価されたのに等しい結果であった。この事態に強い危機感を覚えた金融庁は、まず「犯罪による収益の移転防止に関する法律」を改正し強化した。その上で2019年に行われた第4次対日相互審査にスムーズに対応するために、上記のマネーロンダリング対策ガイドラインを作ったのである。

 第4次対日相互審査は2019年の10月から実施されたが、世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により審査手続きが遅延している。審査結果は2021年8月に公表されたものの、結果は不合格となった。FATFが公表した「第4次対日相互審査報告書」によれば、大規模銀行以外の比較的規模の小さい金融機関の一部で「マネロン・テロ資金供与リスクの理解が限定的である」とされ、「指定非金融事業者及び職業専門家」についても、「低いレベルの理解しか有していない」と厳しく評価した。
 FATFに参加している他の加盟国の審査も行われ、32カ国の審査結果がすでに公表されているが、そのうち24カ国が不合格という非常に厳しい結果が出ている。同様に日本も不合格となったものの、金融庁は審査結果の発表に先行してマネーロンダリング対策ガイドラインの再改正を実施していた。

そもそもマネーロンダリングとは?

【画像】Shutterstock
 マネーロンダリングとは日本語で「資金洗浄」と呼ばれる犯罪の一種である。例えば麻薬売買や脱税、詐欺、粉飾決算などの犯罪によって収益を得た場合、司法機関が資金の流れを追跡すれば犯人を特定できると考えられる。そこで資金の出所を分からなくして追跡を逃れる手法がマネーロンダリングだ。

 マネーロンダリングのプロセスは主に三つの段階に分かれる。1.プレイスメント、2.レイヤリング、3.インテグレーションである。

1.プレイスメントとは違法な資金を健全な財務システムに入金する段階である。例えば以下の手口がある。
  • 金融機関に預ける。
  • 株や投資信託、外貨、不動産を購入する。
  • ギャンブルでチップと交換する。
  • 架空のビジネスに利益を計上する。
2.レイヤリングとは資金の出所を分からなくする段階である。複数の他人名義の銀行口座や送金サービスに転々と入金や送金を繰り返す。転々と繰り返せば繰り返すほど本当の資金源がどこなのか分かりにくくなる。特に複数の国や地域を横断した送金は追跡が困難である。

3.インテグレーションとは洗浄し終わった資金を回収する段階である。主に換金性や投資性の高い芸術作品や骨董品、不動産などに交換される。合法的なビジネスに投資される場合もある。

「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の概要

 本ガイドラインの特徴は「リスクベース・アプローチ」と呼ばれる手法を取った点にある。リスクベース・アプローチとは「金融機関などが、自らのマネロン・テロ資金供与リスクを特定・評価し、これを実効的に低減するため、当該リスクに見合った対策を講ずること」である(マネーロンダリング対策ガイドラインII-1)。

 まず、扱っている金融商品やサービス、取引形態、取引に関わる国や地域、顧客の属性などを基に、包括的かつ具体的に検証し、リスクを特定する。次に発生頻度や影響の大きさから定量的にリスクを評価する。

 リスクの低減のための具体的措置については、以下の六つに分けて書かれている。
1.顧客管理(カスタマー・デュー・ディリジェンス)
 リスク低減措置の中核的項目である。個々の顧客に着目し、顧客の情報や取引の内容を調査し、リスク評価の結果と照らし合わせて、講ずべき措置を判断する。
 顧客がどのような人物・団体か、どんな目的で取引をするのか、どのような資金の流れを持っているかなどを具体的に調査し、判断する。

2.取引モニタリング・フィルタリング
 取引の内容に注目し、異常な取引を検知し、取引自体を中止したり、そのような取引をした顧客を排除したりしてリスクを低減する。

3.記録の保存
 顧客や取引の履歴など、マネーロンダリング対策に必要な記録は保存が義務付けられている。

4.疑わしい取引の届け出
 疑わしい取引があった場合は届け出をする義務があり、それに対応できる体制を整える義務を有する。

5.ITシステムの活用
 リスク低減措置のために必要なITシステムを活用する。

6.データの管理(データ・ガバナンス)
 正確なデータを保存する義務を有する。

金融機関向けの改正ではあるが、企業も対応が必要

 金融庁が発表した「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」は、金融機関に改正を要求する内容だった。しかし、企業にとっても今回の内容は他人事ではない。弁護士法人御堂筋法律事務所東京事務所に所属する高橋良輔弁護士は、「『マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン』は、金融庁所管の特定事業者(銀行、証券会社、保険会社などの金融機関)を対象とするものである」と説明。しかしながら、「金融機関において、ガイドライン対応として顧客管理が強化されるに当たって、企業側においても、マネーロンダリングや反社会的勢力に関与することがないよう、これまで以上に注意する必要がある。これらの関与、またはその恐れが認められる場合には、金融機関が取引を制限する可能性があり、事業に多大な影響が生じかねないからだ」とも指摘した。
高橋 良輔氏
弁護士法人御堂筋法律事務所東京事務所弁護士。2013年弁護士登録、16年10月より金融庁検査局総務課(専門検査官)、総合政策局マネロン・テロ資金供与対策企画室(室長補佐)などを経て、18年10月より現職。AML/CFTに関する法的助言を含む金融法務その他企業法務案件を幅広く取り扱う。AML/CFTに関する著作として、「担当者解説『マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン』の概要」(金融法務事情2084号)、「「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」の概要(上)(下)」(金融法務事情2162-2163号)ほか多数。
 実際に、社長が指定暴力団幹部と交際していたことで、取引はなかったにもかかわらず会社が倒産に至った事例がある。反社会的勢力との関係が原因で業者との取引が停止し、メインバンクからの融資も停止されて事業を運営できなくなったのだ。このように、金融機関だけでなく、企業側もリスクマネジメント対応が求められていると言えるだろう。

働き方の変化により、顧客との取引時の安全性確保はより困難に

【画像】Shutterstock
 新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延により、企業の商談の形態も激変した。これまでは営業活動は対面で行うケースの割合が多かったが、オンライン商談が急速に普及し、対面の割合は少なくなってきている。

 オンライン商談は、対面商談と比較し非言語的な情報量に乏しい。取引先を訪問しての対面営業では相手の職場の雰囲気や働いている社員の表情、職場環境、来客時のビジネスマナー、商談時の空気感などからその会社の社風をある程度把握できるが、オンライン商談だとそういった情報が少なくなる。オンラインの取引では相手が信頼に足る取引先なのか判別しにくいのだ。

 これは、電話やメールなど、相手の顔が見えないコミュニケーションにおいてはもちろん、ウェブ会議ツールを使ったとしても同様である。ウェブ会議での商談をしたことのある営業担当者の中には「映像も音声もしっかり伝わっているのになぜか話が伝わりにくい」と感じた人もいるだろう。人間のコミュニケーションは言語情報よりも表情や語気といった非言語情報の占める割合が大きく、映像や音声を介して会話するとそれが伝わりにくいといわれているそうだ。

 取引相手の情報が乏しいまま商談を進めてしまうと、意図せず反社会的勢力と取引関係を持ってしまうかもしれない。商談の形態がオンラインと対面のハイブリッドとなる今、取引先の健全性をどのように確認するべきか、今一度考え直す必要があるだろう。

しかしながら、取引先確認時の課題は山積み……

【画像】Shutterstock
 とはいえ、自社と関わりがある顧客や取引先を全てチェックするのは、現実的ではない。顧客や取引先のコンプライアンスチェックには以下の課題がある。
課題①:信頼できる情報源を確保できていない
 取引先の健全性に関わる情報を調べるときに、どの情報源を参照すれば良いかという判断は非常に難しい。多くの反社会的勢力はフロント企業を使って健全な勢力であるように偽装しているからである。このような企業は反社会的勢力との関わりが公になったとしても、社名や住所や役員名を変更して平然と活動を続けるため、見分けるのは容易ではない。

課題②:チェックの基準が定まっていない
 企業が反社会的勢力のリスクを回避するためには何らかのルールを設けてチェックすることが効率的で望ましいが、反社会的勢力の手口も時流によって変化するため、一つの基準を継続的に定めることが難しいという課題がある。反社会的勢力を見分ける100%確実な基準は存在しないため、機械的な判断はできず、どうしても人間によるチェックに依存してしまいがちである。

課題③:①②に対応するための工数が大きな負担となる
 ①②のような課題に対し、十分な精度でかつ継続的に運用可能なコンプライアンスチェックの体制を構築するのはかなりの工数がかかる。特に情報や人員のリソースが十分ではない中小企業やスタートアップ企業がこのような体制を構築するのは困難な場合が多いだろう。

 このような課題の解消につながる取引リスクのチェック方法を以下の資料にまとめているので、ぜひ読んでいただきたい。

関連記事

新着記事

DIGITALIST会員が
できること

  • 会員限定記事が全て読める
  • 厳選情報をメルマガで確認
  • 同業他社のニュースを閲覧
    ※本機能は、一部ご利用いただけない会員様がいます。

公開終了のお知らせ

2024年1月24日以降に
ウェブサイトの公開を終了いたします