人事
公開日: 2023.01.11
知らないでは済まされない“人権デューデリジェンス”その内容と対策を、わかりやすく解説。
昨今、ホットなワードの1つが「人権デューデリジェンス」だ。もともと2011年に国連人権理事会が「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」を全会一致で採択。世界的に企業活動における人権保護、企業の人権尊重責任に注目が集まっていた。加えて、2020年、日本政府は「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」を策定・公表し、多くの企業にとって、重要なビジネス課題の1つとなっていると言える。

人権デューデリジェンスとは? どの企業にも存在する人権リスク
人権デューデリジェンスという言葉を聞いても、詳しい中身まではわからないという向きも多いかもしれない。
スーパーの店頭などで「フェアトレード」という言葉を見たことはないだろうか。チョコレートやコーヒー、衣料品などで多く見かけることができる単語だ。これは「貧困のない世界を作るために、弱い立場にある生産者と強い立場にある企業が対等な立場で取引を行うこと」を指している。コーヒー豆の例で言えば、コーヒー豆生産国である途上国の貧しい生産者を薄給で酷使し、他国の企業が安価にコーヒー豆を購入するようなケースを避けた取引を指す。経済格差、取引上の力関係をもとに、不当に安く労働者を働かせていることを防ぐ考え方だ。
人権デューデリジェンスは、フェアトレードを含み、あらゆる企業活動で「不当に人権を侵害した企業活動」を避ける継続的な取り組みのことだ。すでに、世界では人権を侵害した企業活動へのペナルティが課されている。2011年1月、ユニクロの綿シャツがアメリカの税関・国際警備局に輸入差し止め措置をくだされた。これは、ユニクロの綿シャツの原材料である綿花が、ウイグル新疆自治区の生産団体が関与した疑いがあるためだった。その生産団体では、不当に労働者の人権を侵害して働かせていたとされている。この措置のポイントは「疑いがある」という段階で実効的な措置が取られたことにある。
これは対岸の火事、自社には関係ないと高をくくることができるものではない。例えば「ノートパソコン・パソコン、スマートフォン」「衣料品」「水産物」「カカオ」「木材」など、生活に関わるあらゆるものに人権リスクは存在する。つまり、知らず知らずのうちに、人権リスクをはらんだ企業取引に関わっている可能性は低いとは言えない。
スーパーの店頭などで「フェアトレード」という言葉を見たことはないだろうか。チョコレートやコーヒー、衣料品などで多く見かけることができる単語だ。これは「貧困のない世界を作るために、弱い立場にある生産者と強い立場にある企業が対等な立場で取引を行うこと」を指している。コーヒー豆の例で言えば、コーヒー豆生産国である途上国の貧しい生産者を薄給で酷使し、他国の企業が安価にコーヒー豆を購入するようなケースを避けた取引を指す。経済格差、取引上の力関係をもとに、不当に安く労働者を働かせていることを防ぐ考え方だ。
人権デューデリジェンスは、フェアトレードを含み、あらゆる企業活動で「不当に人権を侵害した企業活動」を避ける継続的な取り組みのことだ。すでに、世界では人権を侵害した企業活動へのペナルティが課されている。2011年1月、ユニクロの綿シャツがアメリカの税関・国際警備局に輸入差し止め措置をくだされた。これは、ユニクロの綿シャツの原材料である綿花が、ウイグル新疆自治区の生産団体が関与した疑いがあるためだった。その生産団体では、不当に労働者の人権を侵害して働かせていたとされている。この措置のポイントは「疑いがある」という段階で実効的な措置が取られたことにある。
これは対岸の火事、自社には関係ないと高をくくることができるものではない。例えば「ノートパソコン・パソコン、スマートフォン」「衣料品」「水産物」「カカオ」「木材」など、生活に関わるあらゆるものに人権リスクは存在する。つまり、知らず知らずのうちに、人権リスクをはらんだ企業取引に関わっている可能性は低いとは言えない。
2011年の国連人権委員会から広まった人権デューデリジェンス。世界では法制化が進んでいる
冒頭で述べたように、人権デューデリジェンスは、2011年の国連での採択から、世界的に意識が広まったと言える。その後、企業の自主的な取り組みだけではなく、各国での法制化も進んでいる。2012年のアメリカを皮切りに、欧米諸国での人権デューデリジェンスに関連する法整備は加速度的に進んでいると言える。
日本では、2020年になって経済産業省が指針を策定、公表したが、まだ法制化の動きはない。しかし、近い将来、日本国内でも法制化される可能性は高いと言えるだろう。また、日本国内で法律がなくても、前述のユニクロのケースのように、海外で規制されるリスクは大きい。
日本では、2020年になって経済産業省が指針を策定、公表したが、まだ法制化の動きはない。しかし、近い将来、日本国内でも法制化される可能性は高いと言えるだろう。また、日本国内で法律がなくても、前述のユニクロのケースのように、海外で規制されるリスクは大きい。

日本企業での人権デューデリジェンスへの取り組みが進む
下の図1は、JETRO(独立行政法人 日本貿易振興機構)が行った調査だ。この調査によると、大企業では6割以上の企業が、人権デューデリジェンスに関する方針策定を行っている。予定・検討中の企業を含めると8割を超える。中小企業でも3割以上がすでに方針を策定しており、予定・検討中の企業も合わせると7割近くに及ぶ。中小企業では、方針策定が急がれるべきだが、全体的に見れば、多くの企業が人権リスクについて危機感をいだき、方針策定に取り組んでいることがわかる。

注1:nは回答企業総数。
注2:「方針を策定している」は、「方針を策定し、外部向けに公開している」「方針を策定しているが、外部向けには公開していない」の合計。「方針策定を予定・検討中」は「方針を策定していないが、1年以内に策定予定」と「方針を策定していないが、数年以内に策定を検討中」の合計。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)
注2:「方針を策定している」は、「方針を策定し、外部向けに公開している」「方針を策定しているが、外部向けには公開していない」の合計。「方針策定を予定・検討中」は「方針を策定していないが、1年以内に策定予定」と「方針を策定していないが、数年以内に策定を検討中」の合計。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)
出典:ジェトロ「人権デュー・ディリジェンスの導入へ、転換期を迎える日本企業(世界、日本)」
人権デューデリジェンスに取り組むメリットとは
企業が人権デューデリジェンスに取り組むべき理由、メリットは次の3点が挙げられる。
・企業活動における人権侵害の是正
・企業価値を毀損するリスクの低減
・企業価値の向上
1つ目の「企業活動における人権侵害の是正」について、企業が人権デューデリジェンスの方針を策定し、それを実行することで、実際に不当な扱いを受け不幸に陥る人を減らすことができるというメリットが挙げられる。不当に労働者から搾取を行っている事業者との取引をなくすことで、貧困に苦しむ労働者を減らすことにつながる。
2つ目の「企業価値を毀損するリスクの低減」は、人権侵害を行っている企業との取引、自社での人権侵害が明るみに出ることで企業価値が損なわれるリスク減少を期待できる。すでに紹介したユニクロのケースにとどまらず、同じアパレルのZARA、スズキの海外子会社では低賃金や不安定な労働契約が明るみに出て問題化した。日清食品ではCMに起用したスポーツ選手の肌の色を白っぽく加工したことがわかり、人権侵害だとして不買運動が起きている。適切な人権デューデリジェンスの方針を策定、実行すればこういったリスクは低減できるだろう。
3つ目の「企業価値の向上」については、上記2点を実現し、企業として「人権を守ること」を宣言することで企業イメージ、価値の向上が期待できる。今後は、株主、顧客、社会、そして従業員から信頼される企業であることが、持続的な成長の鍵になると言える。そのために、人権デューデリジェンスへの取り組みは必須だと言えるだろう。
・企業活動における人権侵害の是正
・企業価値を毀損するリスクの低減
・企業価値の向上
1つ目の「企業活動における人権侵害の是正」について、企業が人権デューデリジェンスの方針を策定し、それを実行することで、実際に不当な扱いを受け不幸に陥る人を減らすことができるというメリットが挙げられる。不当に労働者から搾取を行っている事業者との取引をなくすことで、貧困に苦しむ労働者を減らすことにつながる。
2つ目の「企業価値を毀損するリスクの低減」は、人権侵害を行っている企業との取引、自社での人権侵害が明るみに出ることで企業価値が損なわれるリスク減少を期待できる。すでに紹介したユニクロのケースにとどまらず、同じアパレルのZARA、スズキの海外子会社では低賃金や不安定な労働契約が明るみに出て問題化した。日清食品ではCMに起用したスポーツ選手の肌の色を白っぽく加工したことがわかり、人権侵害だとして不買運動が起きている。適切な人権デューデリジェンスの方針を策定、実行すればこういったリスクは低減できるだろう。
3つ目の「企業価値の向上」については、上記2点を実現し、企業として「人権を守ること」を宣言することで企業イメージ、価値の向上が期待できる。今後は、株主、顧客、社会、そして従業員から信頼される企業であることが、持続的な成長の鍵になると言える。そのために、人権デューデリジェンスへの取り組みは必須だと言えるだろう。
人権デューデリジェンスに取り組む、4つのステップ
具体的に人権デューデリジェンスへの取り組みを行う場合、次の4つのステップを踏むことが必要になる。
①アセスメント
・自社および取引先の企業活動、商品やサービスが与える影響、リスクを特定し、評価する
・いったん評価したリスクであっても、経年で変化することを意識し、定期的に再評価する
・専門家の知見を活用する
②影響の予防・軽減
・自社の活動によって人権に悪影響を及ぼすことがないよう、予防策や軽減策を講じる
・責任者・責任部署を明確にする
・予算配分を行い、実効力を持たせる
・アセスメント結果への対応は全社横断的に行う
③モニタリング
・実際に行った対応の効果測定を行う
・質的・量的に適切な指標を持つ
・利害関係者を含む、社内外の意見を活用する
④説明責任の充足
・特に、悪影響を受ける利害関係者への説明責任を果たす
・人権侵害への対応が十分なものかを判断できる情報を開示する
・利害関係者や従業員へのリスクを伴わないように情報公開する
・公開できない正当な理由がある、自社機密事項へのリスクを伴わないように情報公開する
①アセスメント
・自社および取引先の企業活動、商品やサービスが与える影響、リスクを特定し、評価する
・いったん評価したリスクであっても、経年で変化することを意識し、定期的に再評価する
・専門家の知見を活用する
②影響の予防・軽減
・自社の活動によって人権に悪影響を及ぼすことがないよう、予防策や軽減策を講じる
・責任者・責任部署を明確にする
・予算配分を行い、実効力を持たせる
・アセスメント結果への対応は全社横断的に行う
③モニタリング
・実際に行った対応の効果測定を行う
・質的・量的に適切な指標を持つ
・利害関係者を含む、社内外の意見を活用する
④説明責任の充足
・特に、悪影響を受ける利害関係者への説明責任を果たす
・人権侵害への対応が十分なものかを判断できる情報を開示する
・利害関係者や従業員へのリスクを伴わないように情報公開する
・公開できない正当な理由がある、自社機密事項へのリスクを伴わないように情報公開する
このステップを踏むには、弁護士だけではなく、人権デューデリジェンス、企業のリスクマネジメントに長けたプロフェッショナルのアドバイスが必要になる。また、アセスメントのステップでは、新規・既存を問わず、取引先の活動に人権リスクがないかのチェックが欠かせない。しかし、実際に一社一社、チェックを行うことは困難だ。
例えば、Sansanの「リスクチェック」機能なら、名刺情報を登録するだけで、自動的にスクリーニングを実行し、リスクがあると判断された場合のみ、通知されるサービスがある。既存取引先に関しても、一括でリスクチェックを実行できるサービスもある。こういったサービスを積極的に活用することで、人権リスクを低減する一助になるだろう。
例えば、Sansanの「リスクチェック」機能なら、名刺情報を登録するだけで、自動的にスクリーニングを実行し、リスクがあると判断された場合のみ、通知されるサービスがある。既存取引先に関しても、一括でリスクチェックを実行できるサービスもある。こういったサービスを積極的に活用することで、人権リスクを低減する一助になるだろう。
人権デューデリジェンスへの取り組みは不可欠だ
いま、パワハラやセクハラを含めて、企業にとってコンプライアンスは大きな課題となっている。人権デューデリジェンスは、いわゆるコンプライアンスを含めたものだと言える。自社内のコンプライアンスにとどまらず、取引先、そのまた取引先まで、人権侵害、法令違反があると、「関知していなかった」「把握していなかった」で済む時代ではなくなっているのだ。
このリスクはあらゆる企業に存在する。一度アセスメントを行ってリスクがないと判断されても安心してはいけない。それはリスクがないのではなく「リスクが発見されなかった」だけだと考えるべきなのだ。
人権デューデリジェンスは、いまはホットワードだ。しかし、5年後、10年後には、当たり前の言葉になっていることは間違いない。
このリスクはあらゆる企業に存在する。一度アセスメントを行ってリスクがないと判断されても安心してはいけない。それはリスクがないのではなく「リスクが発見されなかった」だけだと考えるべきなのだ。
人権デューデリジェンスは、いまはホットワードだ。しかし、5年後、10年後には、当たり前の言葉になっていることは間違いない。